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Noren Sake
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日本人と日本酒との関係

日本人と日本酒との関係

日本人の生活に深く根付いている日本酒 日本酒が他のお酒と違うのは、昔から冠婚葬祭や神事など日本人の行事に深く関わってきただけでなく、現在でも変わらず慣習のなかに日本酒が存在している点です。日本人の多くは自らを無宗教だと思っていますが、知らず知らずのうちに「神道」の精神と、「仏教」の感覚が浸透しています。「お天道様(太陽)が見ているから悪いことはできないよ」と小さい頃から、親に叱られたり、自然やあらゆる物を神とする、という感覚が根付いています。多くの日本人は、それを「宗教」だとは思っていません。伝統や習慣に近い感覚です。そんな日本人の生活に「日本酒」は、欠かせない存在です。稲は、古代神話に登場する最も重要な神から授かった神聖な植物とされ、この稲からなる米を発酵してつくられる日本酒は、神様へ捧げる特別な飲み物とされてきました。 どんな場面で日本酒が出てくるのか、見ていきましょう! 結婚式 結婚式や会社の開業、店の開店、新幹線の開通などお祝いの場で「鏡開き」をします。酒蔵で、酒樽の上蓋のことを鏡と呼んでいたことに由来します。新たな出発に際して健康や幸福などを祈願し、その成就を願う意味が込められています。神前の結婚式のときにも、「三々九度(さんさんくど)」という新郎新婦がお酒を酌み交わす儀式をおこないます。現在過去未来を表す大きさの違う三つの杯を使って、三回で注ぎ三回で飲み、新郎新婦合わせて合計九回神酒を飲むというもの。それぞれの数は奇数で、2で割り切れないことから、結婚する2人の固い絆を結び一生苦楽を共にする、という誓いを意味しているそうです。 葬儀 日本では故人を火葬する葬儀の前夜に、夜通し灯りを消さずに、ご遺体を見守る「通夜」という儀式があります。親族や親しい友人などゆかりの深い人々が集まって、故人の冥福を祈り、別れを惜しみます。遺族は夜通し灯明と線香の火を絶やさないようにします。そこでも故人の家族からてなされるのが「日本酒」です。もちろん御礼の意味も兼ねているため、現代の嗜好にあわせてビールやウイスキーなども揃えられますが、「日本酒」であることにはちゃんと大切な意味があります。 700年代に書かれた書物でも、現代に通じる記録が残されています。   殯(もがり)と言って、人が亡くなってもすぐに埋葬せず、小屋のようなものを作って、死者が骨化するまでの1~3年もの間遺体を安置しました。その間、死者の霊を慰めるため食事を供え、死者の霊を呼び戻すために小屋のかたわらで酒を飲み歌ったり踊ったり宴会が行われていました。当時、死者の霊は災厄をもたらすと信じられていて、災厄から逃れるために魂が亡骸から離れていくのを防ぐ、あるいは死者の魂を呼び戻すためだったといわれています。 日本では米が生命力の源泉と考えられていて、米から作る酒には死がもたらす災いを遠ざけるとされてきました。とくに葬送儀礼では、生命の源である米や米からつくられた日本酒を取り込めば、災難を遠ざけると思われていました。 地鎮祭 地鎮祭と日本酒 家を建てる前には「地鎮祭」といって、土地の神様に「無事家が建ちますように」「家が建った後も家族を守ってくれますように」と祈りを込める儀式がおこなわれます。祭壇にはしめ縄、榊が施され、米、日本酒、塩、水などが供えられると決められています。 祭り 日本酒と祭り 祭りは稲を植える前には、五穀豊穣を祈り、収穫後には感謝を込めて神を山に送る、という儀式が祭りの原型でした。この稲からなる米を発酵してつくられる日本酒は、神様へ捧げる特別な飲み物なのです。神に供えた後は人々が飲みますが、日本酒を飲むと酔います。かつて科学が解明されていない時代には「酔う」という現象が理解できないものでした。いつもおとなしいひとが陽気になったり、おかしなことを言い始めたり、記憶がなくなったり・・・。そのため昔の人たちは、酔っている人を神と近付いている状態だと理解したのです。それから同じ甕や盃の酒を仲間とともに飲むことで、一体感を高めていました。現在でも祭りには、その地域の日本酒がふるまわれ、みんなで飲み交わすことが多いです。 初詣 初詣と日本酒 初詣や厄除けなどで神社に訪れた際にいただくこと日本酒は、御神酒(おみき)と呼ばれます。御神酒は、神様にお供えする日本酒のことで、神社や神棚にお供えする神饌(しんせん)のひとつです。神饌とは、神前に供えるお酒や食べ物の総称で、お餅や魚、野菜や塩などがあり、大変神聖なものとされています。大昔は神社や氏子(地域の住人で、その土地の神社にいる氏神様におまつりをする人)が御神酒を造っていましたが、現在は酒税法によって免許がなければ酒づくりができないため、地域の酒蔵がつくった日本酒が奉納されます。ただし伊勢神宮や大神神社など一部の神社や神宮は清酒醸造免許を持っているため、今でも自分たちで御神酒を造って、供えています。御神酒を飲むときには、マナーがあります。地域により異なるマナーがある場合もあります。神社の人の言うことをよく聞き、正しく守りましょう。 正月 お正月と日本酒 正月には「屠蘇(とそ)」というものを飲みます。もとは中国から伝わった文化で、一年間の疾病を払い、長寿を願うものとされてきました。山椒・細辛・防風・肉桂・乾姜・白朮・桔梗の薬を合わせた屠蘇散がつくられ、それらを日本酒や味醂(みりん)に浸し置いてから、正月に飲みます。「一人これを飲めば一家疾なく、一家これを飲めば一里病なし」と言われていました。スパイスの内容を見ても、正月の疲れた胃腸に優しい内容になっており、実用的です。現在では一般家庭で、正式な屠蘇と作り飲む人は減りましたが、ドラッグストアなどで「屠蘇散」が売っているのでそれを使って飲む人や、簡略化して日本酒をそのまま飲む人もいます。 店頭に並ぶ日本酒 それから日本全国にはたくさんの地域に根差した日本酒が存在します。そこで、風習とは別に実家に帰省する際に、今住む場所の日本酒をお土産に買って帰ったり、親戚宅への手土産にする、逆に地元に帰ってくる我が子や孫、甥、姪のためにおもてなしの日本酒を用意しておくことも多いものです。古くからの文化のなごりとプレゼントが融合して、年末年始に日本酒を飲む人は多いのです。 まとめ 日本酒と日本人との強い結びつきは、稲作がはじまり、酒をつくるようになってから現代に至るまで長い歴史があります。年々なくなっていく文化もありますが、今もまだ生活に深く根付き、いろいろなところで日本酒は大切にされ、他のお酒とは別格の扱いをされています。物事のすべてに意味があり、科学で解明され説明ができる、と考えると、人は傲慢になり、他人を責めやすくなり、お互いすこし窮屈な思いをします。万物に神様が宿り大切にしなければならない、と思う時、事象の前で人はみんな平等になります。日本人の思想は、優しい気持ちで日々を生活するための知恵だったのかもしれません。そんな名残ともいえる、日本酒にまつわる文化。これからも大切にしていきたいものです。

日本酒のつくり方(製造工程)について

日本酒のつくり方(製造工程)について

世界で最も複雑な製造工程を辿る神秘の酒・日本酒 日本の主食である米と水だけを使ってつくったお酒「日本酒」は、世界で最も複雑な製造工程を辿る酒、ともいわれ、他に例を見ない「並行複発酵」という造り方をします。アルコール発酵をするためには、糖分を必要とします。果実は放置しておけば、空気中の酵母が付着してアルコール発酵しますが、日本酒の原料である米には糖ではなくデンプンの形で含まれているので、一度糖化してから、アルコール発酵をしなければなりません。この2つの工程が同じ液中(タンクの中)でおこなわれるのは、世界中で「日本酒」だけです。そんな複雑な製造工程をいきなり深く知るのは難しいので、工程の様子を写真とあわせて大まかに見ていきましょう!    日本酒づくりの工程 「どんな日本酒をつくるか」「どんな伝統や文化を残すか」という考え方の違いから、使用する道具や機械も違います。日本酒づくりの工程は、酒蔵によって少しずつ違う部分もありますが、大まかにはこのとおり。一例として見てください。 精米 洗米/浸漬(しんせき) 蒸米/放冷 麹(こうじ)造り 酒母造り もろみ(仕込み) 上槽(じょうそう) 濾過(ろか) 火入れ  貯蔵 火入れ/瓶詰め 精米 玄米を、精米する工程です。米の磨き具合によって、味わいが変わります。あまり磨かなければ、日本酒の味わいに複雑さや雑味が出ます。たくさん磨けば、綺麗で軽快な味わいのお酒になりやすいのですが、より大量の米を使用することになり、原価も多くかかってきます。それに家で毎日食事と合わせて飲む気軽なお酒は、安価で味わいが複雑な方が嬉しかったりするので、一概に磨けば美味しい、というものでもありません。ほとんどの酒蔵は30%精米、50%精米、60%精米、70%精米・・・などさまざまなバリエーションのお酒をつくっています。   精米するとき、摩擦熱で米が割れやすくなります。この後の製麹の工程のために、できるだけ時間をかけ、丁寧に割ることなく精米するのが大切です。精米機は非常に高価で、大きさも大きく、置く場所を必要とするため、自社で保有するのではなく、地域で共同精米所をつくったり、外部の精米メーカーに委託することがほとんど。多くの酒蔵が外部委託している唯一の作業が「精米」です。   洗米/浸漬(しんせき) 洗米機で米を洗う様子 「洗米」には2つの目的があります。1つめは、精米時に米の周りに残された糠を洗い流し、取り除くこと。2つ目は、後から適切な水分を米に吸収させることです。洗米前の白米水分を計り、10kgずつ小分けされた米を洗い、浸漬し、重量を量り、10kgからどれだけ増えたかで、「白米吸水率」を計算します。次の工程「蒸米(蒸きょう)」で必要な水分を米に適切に吸収させるため、0.1g単位でチェックして、慎重におこなっていきます。   蒸米(蒸きょう)/ 放冷 「甑」で蒸した米を掘り外に出すの様子 蒸した米を、適正な温度に冷ますため手で均等に広げる=放冷の様子 米を蒸す作業。食べる米のように炊くのではなく、蒸気を当てて蒸します。米に必要な水分を吸わせ蒸して、米のでんぷんをα化することで、次の「麹づくり」の作業をしやすくすることと、タンク内で米が溶けやすいようにすることができます。甑を使う方法と、ベルトコンベアを使った連続式蒸米機を使用する方法があります。甑を使う場合は、昔ながらの釜を下に置くスタイルと、ボイラーからの蒸気を当てるスタイルがあります。1970年代の日本酒がたくさん売れていた時期に設備投資した酒蔵は、大量生産を目指して連続式蒸米機を採用した所も多いですが、最近設備を新しくしようとする中小規模の酒蔵では、コンパクトで場所も取らず、品質重視の少量生産に適した甑を使うスタイルが多く採用されています。   麹づくり 「麹室」の中で、麹菌を種付けするために、適正な温度に冷ますため手で均等に広げる様子 「箱製麹」の様子。麹菌を振りかけ生育する中で発生する温度を下げ、湿度を除くため手入れする 「麹室(こうじむろ)」という衛生管理をより徹底して、区切られた部屋で48時間程度かけて麹米をつくる工程です。この作業を最も大切にする蔵が多く、場合によっては酒蔵の中でも限られた人(杜氏と麹の責任者だけ、など)しか入れない、という規則を決めているところも。   1日目:蒸して、放冷した米を「麹室」に引き込み、種麹をつける「種切り」という作業をして、まんべんなく米に菌がつき、米の内部まで菌糸を生やすように、「床もみ」という混ぜる作業をします。その後は乾燥を防ぐため、布で包み、菌の生育に適した温度を維持するよう観察して待ちます。   2日目:麹同時が熱を湿度を発して、粒がくっつきあっているので「切り返し」をして、バラバラにします。この時点で最初とは異なり、米のまわりにフワフワとした菌糸を肉眼でも観察することができます。「切り返し」したら、すぐに「盛り」作業。蓋、箱、床(とこ)、自動製麹機という4種類があります。また箱は、蔵によって「大箱」「中箱」など大きさが異なります。写真では「箱製麴」をおこなっています。温度と湿度管理しやすいように、箱に8kgずつ小分けして管理していきます。目標とする酒の味わいによって異なりますが、最高温度40~43℃を維持して、この後の工程に役立つ酵素をたくさん造るように心がけます。その後「仲仕事」「仕舞仕事」をして、工程により適正な温度を保持します。   3日目:麹を麹室から出す「出麹(でこうじ)」の作業をします。その後「枯らし」といって、表面を乾燥させ、不要な微生物や菌を防ぎ、より内部に麹菌の胞子をつけるようにします。   酒母(酛)づくり 酒母タンクに麹米を投入したばかりの様子 他の工程と隔てた部屋に置かれる酒母タンク 「酒母(しゅぼ)」は、「酛(もと)」と呼ぶこともあります。大きなタンクでいきなり培養するのではなく、より確実に安定して、健全に酵母を大量に培養するための工程です。酒母はこの後の「醪」の工程と異なり、強烈な酸や苦味がある液体になる。まだデータ分析できない時代、五感を使い味見をして管理していた酒母責任者(酛屋もとや)は、強い酸によって歯が溶けていた、という話もよく耳にします。この工程を丁寧におこなうことでより健全な「醪」ができるため、「酒母室(しゅぼしつ)」といって独立した部屋で温度設定して、衛生状態を保ち、乾燥させて管理することが多いです。「酒母」の段階で、酵母を添加します。(酵母を添加しない方法もあります)普通速醸酛、中温速醸酛、高温糖化酛、生酛、山廃酛、菩提酛など、酒蔵の方向性やその酒の種類によって、酒母の作り方を変え、最も適したやり方を採用しています。   もろみ(仕込み) 掛米を投入しながら、均一に発行するよう櫂入れする様子 「酒母」の次は、大きなタンクに「酒母」と蒸した米(掛米)と水を投入する作業「醪」の「仕込み」です。日本酒は、冒頭で述べた通り大変複雑な発酵経過をたどるお酒。醪のなかでは、「蒸米の糖化」と「酵母が糖を食べて消費するアルコール発酵」が同時におこなわれています。そのため一つずつの工程を失敗することなく、順調に進めるため、先人たちが生みだしのが「三段仕込み」。「初添え(はつぞえ)」「踊り(休ませる)」「仲添え」「留添え」という三段階を経ることによって、温度管理がしやすく、雑菌の侵入を防ぎ、そのタイミングで必要な酵母の働きをコントロールしやすくなります。ステンレスやホーローのタンクを使用することが多いですが、江戸時代の酒づくりを復古するため、または味わいに特徴をつけるため、木樽を使用することもあります。   上槽(じょうそう)・搾り 自動圧搾機、通称「ヤブタ」 上槽した後に残った酒粕 目標とする酒の状態になった「醪」を搾り、日本酒と酒粕に分ける作業です。・槽(ふね)・自動圧搾機・袋搾りと3種類の方法があります。一番多いのは「自動圧搾機」。「袋搾り」は、少しずつ袋に詰め、棒に紐で括り付けて、ぽたぽたと垂れる雫だけを集める方法で、大変手間がかかります。そのため大吟醸や純米大吟醸などの高級酒や鑑評会出品酒などだけに採用するのが、ほとんどです。「雫取り」「雫搾り」「袋吊り」「雫酒」などさまざまな呼び方があります。   濾過(ろか) 「ろ過」の目的はいくつかあります。 1つ目:「火落ち菌」などの日本酒の大敵となる一般細菌が瓶内に混入するのを取り除くため。 2つ目:味わいを整えるため。 3つ目:は色を取り除くため。 搾りたての日本酒は、透明ではなく、若草色や黄金色のようなやや黄色みがかっているのが普通です。しかしかつては着色が嫌われて、わざわざ活性炭素を使って、「ろ過」をして、無色透明にする作業が一般的におこなわれていました。この作業をすると透明になり、さらに日本酒の欠点となる味わいも軽減されます。しかし同時に日本酒の旨みも多く除かれてしまいます。そのため近年では活性炭素を使った「ろ過」作業をしない「無濾過」の状態で出荷する酒蔵も増えています。また「ろ過」の選択肢も増えており、風味は残して微生物を除去する細かい目のフィルターやSFフィルターなども存在します。日本酒のろ過のみならず、仕込水、割水のろ過に使用されることもあります。   火入れ プレートヒーターで火入れ作業をする様子。 「火入れ」作業は、酒に残った酵素の働きを止め、、「火落ち菌」などの日本酒の大敵となる一般細菌を死滅させるためにおこなう。従来「火入れ」は、搾った後と、出荷前の2回おこなわれるのが一般的でした。近年では「火入れ」をしない「生酒(なまざけ)」での流通も増えましたが、貯蔵時や運送時、または店頭に並べられてから成分変化してしまうリスクを抱えています。そのため瓶詰めして、取り扱いを熟知した酒販店のみへ限定流通し、すぐに売り切る、というスタイルが採られています。また1回だけ「火入れ」する「生貯蔵酒」も増えており、記載がない場合でも1回のみというケースも多くなりました。   「火入れ」の方法はいくつかあります。熱湯を張ったタンクに蛇菅を入れて酒を通す「蛇管式」、蒸気やお湯が流れるプレートに酒が通るプレートを接して熱する「プレートヒーター式」、瓶詰めしてから温水のシャワーをかける「パストライザー」、瓶詰めしてから手作業で湯煎してから冷水につけて冷やす「瓶燗火入れ」など、さまざまなやり方があります。いずれも何度の温度で、どのくらいの時間火入れするのか?どのタイミングでするのかは、極めて重要で、酒蔵の知見や技術によるところが大きいのです。   瓶詰め 全自動の機械を使い、非接触で衛生状態を保ちながら瓶詰めされる様子 できあがったお酒を瓶に詰める作業です。酒蔵の規模によって全自動の場合と、手動の簡易的な機械を使った手詰めの場合があります。いずれも必ず目視で異物混入がないか確認します。   貯蔵 清潔な酒蔵のなかに貯蔵タンクが並ぶ様子(賀茂鶴酒造) かつて日本酒は、できあがった後に一定期間(およそ半年ほど)貯蔵して、味わいを熟成させ、出荷するのが一般的でした。現在では造ってすぐ出荷し、すぐ飲んでもらう、というスタイルが増えましたが、できたての日本酒はフレッシュでピチピチしている反面荒々しい角が立つ味わいが特徴的です。現在でも計画的に貯蔵をして、出荷される日本酒もたくさんあります。タンクの中に入れて貯蔵する方法と、瓶詰めしてから貯蔵する方法があります。 昔使われていた木樽(丹波杜氏酒造記念館) ステンレスやホーローのタンクを使用することが多いですが、江戸時代の酒づくりを復古するため、または香りをつけたり、味わいに複雑性を持たせるため、木樽を使用することもあります。   まとめ   各工程が簡単に見てもらいました。日本酒づくりはどの工程が少し違っても、まったく違う味わいになります。酒蔵によって酒づくりに対する考え方や目標とする酒の味わいが異なるため、使う機械、酵母、道具、時間や温度など、細かい部分は違いますが、流れはだいたい一緒です。

全国の酒蔵数や発展した理由、現在の取り組みについて

全国の酒蔵数や発展した理由、現在の取り組みについて

日本は小さな国ですが、南北に広く、山や海に隔てられているため、地域ごとに独自の文化を持っています。異なる食文化を持つため、それぞれの地域の料理と一緒に飲まれる日本酒も、その地域に住む人たちの味覚が反映されています。日本酒は日本国内でも地域ごとに発展を遂げてきました。 都道府県ごとの酒蔵の数 日本には約1700軒の酒蔵があります(2020年のデータ)。この数は酒造免許を持っているこの数で、このデータのなかには、免許はありながら日本酒を作っていない蔵や、数年に一回造る蔵など市場に出ないもの、または食品会社や大学などでアルコールが生じる試験醸造用の免許も含みます。 都道府県ごと酒蔵数  47都道府県中 上位10位 新潟県 98軒 兵庫県 91軒 長野県 85軒 福岡県 69軒 福島県 66軒 広島県 58軒 山形県 55軒 岐阜県 54軒 愛知県 52軒 京都府 52軒 ※2020年データ 一位 新潟県一位の「新潟県」は、かつて広大な低湿地が広がっていて稲作にとって劣悪な環境でした。150年以上前に移住した人たちの多大な努力によって、土地の改良と稲の苗の開発が進められ、日本一の米どころへと発展。冬は雪が深く積もるため、多くの美しい雪解け水が生まれ、稲作に必要な豊富な水資源があります。朝晩の寒暖差も大きいため、良い米が育つ場所です。それに伴い、日本酒づくりも盛んになりました。 二位 兵庫県 二位の「兵庫県」は、「灘エリア」という内海(瀬戸内海)側のエリアがもっとも有名な酒造りの場所です。すぐ裏手に急な山があり、目の前には海があります。ここを流れる川の急流を利用して、150年以上前に水車式の精米機が発達したことで、おいしい日本酒を大量に造ることに成功した地域です。また目の前の海から船を出して、当時の都であり大消費地である「江戸」に酒を運びやすかったのも酒蔵が増えた理由です。 三位 長野県 三位の「長野県」は、日本の内陸に位置し、3000m以上の山脈があり、2000m以上の山があちこちにあります。そのため流通が容易ではなく、地域ごとで飲むための日本酒をつくる酒蔵が誕生しました。1800年代には、長野県だけで1000を超える酒蔵あったらしい。   都道府県ごと酒蔵数  47都道府県中 下位3位 沖 縄県 4軒 宮 崎県 2軒 鹿児島県 2軒 ※2020年データ 沖縄県は、琉球王国時代に東南アジアから伝わってきた伝わってきた酒造り文化が発達していて、今でも「泡盛(あわもり)」が盛んです。宮崎県と鹿児島県は、焼酎が多く造られているため、日本酒醸造所の数は少ないです。 独自の酵母・酒米の開発など。県単位の進化 日本酒はかつて再現性が低く、賭けのような側面がありました。そこで「醸造に関する科学、技術の研究とその振興を図り、もって醸造業の進歩発展に資すること」を目的として1906年に、公益財団法人日本醸造協会が設立されました。さまざまな蔵で発見された特に優秀な酵母は、日本醸造協会によって維持管理され、酒蔵に販売しています。 さらに現在では都道府県ごとに「醸造試験センター」「食品工業技術センター」などが設置され、日本酒専用の酒米の開発や、酵母の研究、日本酒造技術の向上をはかる取り組みがおこなわれています。 毎年おこなわれる「全国新酒鑑評会」は、日本酒の順位づけではなく、ブラインドテイスティングによってより優秀であると認められた日本酒に「金賞」が与えられます。1つずつの酒蔵が鍛錬を重ねるのはもちろんのこと、都道府県ごとに、より多くの酒蔵が金賞を受賞するように酒蔵をあらゆる面でサポートしています。酵母や米の詳しい情報については、今度お伝えします! まとめ 日本中、または世界中の人々が日本酒を飲むようになって、酒蔵で働く人たちの市場に対する視野も広がり、酒蔵ごとのオリジナリティある日本酒が増えています。 しかし今でも酒蔵の周りの人たちが一番の得意先、ということも多く、各地のルーツが深く反映されています。 日本では、寒い地方では、塩漬けなど保存食をつくるため、味が濃い食べ物が多く食べられるため、そこに住む人の味覚も塩っ気のあるものを求めるようになります。そうすると食べ物と一緒にテーブルに並ぶ地元の日本酒は、旨味がたっぷりあって、甘みもある濃い日本酒になる傾向があります。反対に海沿いの日本酒は、新鮮な刺身などと合わせるので、ドライでスッキリとした味わいが多いようです。単純な地理だけでなく、昔その地を治めた武将の出身地(彼が好きな味)や、特産品の味わいにも日本酒は影響を受けています。 気に入った日本酒がもしあれば、その地域の成り立ちを深く知ってみてください。その日本酒を理解することで、よりおいしく感じるでしょう。

そもそも日本酒ってなに?

そもそも日本酒ってなに?

日本酒は、古くから日本に伝わる伝統的なお酒です。「おちょこ」と呼ばれる、小さなショットグラスに似た形状の器で飲むことも多いので、よく海外の人からウォッカやジンのようなハードリカーと勘違いされることもありますが、ワインやビールと同じ醸造酒で、アルコールは13~17%程度。料理と一緒に、少しずつゆっくり飲むべきお酒です。 世界で最も複雑な製造工程を辿る酒・日本酒 日本の主食である米と水だけを使ってつくったお酒「日本酒」は、世界で最も複雑な製造工程を辿る酒、ともいわれ、他に例を見ない「並行複発酵」という造り方をします。アルコール発酵をするためには、糖分を必要とします。果実は放置しておけば、空気中の酵母が付着してアルコール発酵しますが、日本酒の原料である米には糖ではなくデンプンの形で含まれているので、一度糖化してから、アルコール発酵をしなければなりません。この2つの工程が同じ液中でおこなわれるのは、世界中で「日本酒」だけです。7~8世紀には米を噛み(デンプンをブドウ糖に変える)、壺の中に入れ集めて、空気中の酵母が付着してアルコール発酵する「口嚼の酒(くちかみのさけ)」というものがありました。 科学が解明されていない時代の日本において、複雑で繊細なバランスで醸造される「並行複発酵」が開発されたのは、当時の人々が繰り返し試行錯誤した証です。日本人が持つ勤勉で几帳面な研究熱心さの賜物でした。同時にそれだけ熱心にお酒を飲みたかった、ということでもあるかも?! 世界中の醸造家が憧れる製造工程を経てつくられる日本酒は、日本の宝なのです。神秘的な日本酒について、ご紹介します! 法律のこと わたしたちが普段「日本酒」と呼んでいるお酒は、日本の国税庁が定めた酒税法のなかでは、ほぼ同意で「清酒」と言います。清酒は、以下のように定義されています。 米、米こうじ及び水を原料として発酵させて、こしたもの(アルコール22度未満) 米、水、清酒かす、米こうじその他政令で定める物品を原料として発酵させて、こしたもの(アルコール22度未満) 清酒に清酒かすを加えて、こしたもの 日本産以外は「日本酒」と呼べない? 「日本酒」は日本の農林水産省が定める地理的表示(GI)保護制度で、原料の米に日本産米を用い、日本国内で醸造したもののみを指します。日本全域には、伝統的な生産方法や気候・風土・土壌などの生産地等の特徴が、品質等の特性に結びついている産品が多く存在しています。これらの産品の名称(地理的表示)を知的財産として登録し、保護する制度が「地理的表示保護制度」です。 現在では日本以外多くの国で清酒がつくられていますが、日本の法律では「日本酒」と呼ばず、一般的に「Sake」と総称しています。あまり聞いたことないですが、たとえば日本国内の醸造所でアメリカ産の米を使い酒を作った場合も、「日本酒」と表記することができません。 日本酒の種類 日本の酒税法で清酒(日本酒)には、酒税法上の区分として「普通酒」と「特定名称酒」の2つがあります。米、米麹以外に、政令で定める物品(酸味料や糖類など)が入っているもの、または精米歩合71%以上で醸造アルコールが添加されているものが「普通酒」。それ以外の「特定名称酒」は、さらに大きく6種類に分類されます。 基準となる「精米歩合」とは、玄米を100%とした時、精米後残された米の割合。「精米歩合70%」は、30%を削って糠にし、70%残っている状態のことを指します。削るほど、米の外側に含まれているたんぱく質がなくなり、できあがりの酒の雑味がなくなります。また削れば削るほど、原料米の量を必要とするため商品価格にも反映され、高価になります。 純米酒(特別純米酒):米と米麹だけ使用してつくっており、精米歩合が71%以下 純米吟醸酒:米と米麹だけ使用してつくっており、精米歩合60%以下 吟醸酒:精米歩合60%以下で、醸造アルコールが加えられたもの 純米大吟醸酒:米と米麹だけ使用してつくっており、精米歩合50%以下 大吟醸酒:精米歩合50%以下で、醸造アルコールが加えられたもの 本醸造酒:精米歩合70%以下で、醸造アルコールが加えられたもの ※醸造アルコールは廃蜜糖(サトウキビやテンサイ汁を濃縮した製糖原料から砂糖を繰り返して結晶させ、取り出した残りの液)からできた純粋なアルコールのこと。ブドウ糖、果糖などを主成分とし、アルコール工業や菓子の原料などにも広く用いられています。 ※「特定名称酒」の味わいや特長などは、別の記事で詳しく説明します。 日本人の風習と日本酒 日本酒が他のお酒と違うのは、昔から冠婚葬祭や神事など日本人の行事に深く関わってきただけでなく、現在でも変わらず慣習のなかに日本酒が存在している点です。日本人の生活には、あらゆるものを神とする「神道」の精神が浸透しています。ですが多くの日本人は、それを「宗教」だとは思っていません。伝統や習慣に近い感覚です。 たとえば家を建てる前には「地鎮祭」といって、土地の神様に「無事家が建ちますように」「家が建った後も家族を守ってくれますように」と祈りを込める儀式がおこなわれます。そういった儀式の際には、必ず日本酒が供えられます。酒蔵は、地域の神社などに酒樽を毎年奉納し、神様に捧げます。祭りで神輿を担ぐ人も日本酒を飲みます。新年に神社へ初詣に行くと、日本酒が振舞われます。日本酒は「飲む人を清める」「神様と繋がることができる」といった、宗教的感覚を持っているのです。 神前の結婚式のときにも、「三々九度(さんさんくど)」という新郎新婦がお酒を酌み交わす儀式をおこないます。現在過去未来を表す大きさの違う三つの杯を使って、三回で注ぎ三回で飲み、新郎新婦合わせて合計九回神酒を飲むというもの。それぞれの数は奇数で、2で割り切れないことから、結婚する2人の固い絆を結び一生苦楽を共にする、という誓いを意味しているそうです。 まとめ 奇跡の大発見ともいえる、難しい作り方をする「日本酒」。実は若者や下戸など日本酒を飲む習慣がない人であっても、日本での生活は「日本酒」と深い繋がりがあります。日本には1000を超える日本酒の醸造所(酒蔵)がありますが、そのほとんどが100年以上の歴史を持ちます。日本酒は嗜好品でもあり、文化的必需品でもあります。

150年以上前から続く酒蔵の内情と、現在の様子

150年以上前から続く酒蔵の内情と、現在の様子

日本全国に小さな酒蔵が1300軒以上 2025年2月現在、日本には1,100軒を超える酒蔵があります。そのうち資本金3億円以上で従業員300人以上の企業はたった6社のみ。ほとんどが小さな会社です。そして多くの酒蔵が、創業から100年を超える、とても長い歴史を持ちます。創業家の長男が代々会社を継承してきたケースが多く、現在でもそのスタイルは変わりません。父が社長、母が経理、息子が専務、その嫁が常務…というような形を採っている酒蔵も多いです。 酒蔵の人たちの呼び名 日本酒をつくる組織(会社経営の場合も個人経営の場合もある)のことを「酒蔵」といい、オーナーを「蔵元」と呼びます。オーナーから一任される形で、独立して製造部門が存在します。日本酒づくりはチームでおこないます。リーダーとなる製造責任者のことを「杜氏」と呼びます。その部下にあたる製造者たちのことを総称して「蔵人」といいます。杜氏は、蔵元の意向を汲みながら年間の製造計画を立てたり、必要となる米の数量を計算したり、製造管理をおこなうだけでなく、蔵人たちの統率をとる絶対的な存在です。  江戸時代(1600〜1868年)~近代の酒蔵のスタイル 杜氏や蔵人らは、春夏は農家や漁師をしている人がほとんど。冬場に雪が降るなどして働けない期間(だいたい11月~3月頃まで)の出稼ぎ労働として酒蔵が用意した住居に共同で住み、働くことがほとんどでした。そこで風紀を保つため、女性禁制になりました。杜氏が地元地域で声を掛け、酒蔵の規模(製造量)に合わせ必要な蔵人を連れてグループを作り、全員が妻子と離れて、みんなで遠く離れた酒蔵に働きに出向くシステムでした。彼らは祖父、父、子…と代々杜氏や、代々蔵人、という家系も多くありました。 酒蔵の経営は、杜氏が指揮してつくる日本酒の良し悪しに大きく左右されるため、蔵元の年間の収入を超える多額の半年分の報酬を渡して、腕利きの杜氏を呼び寄せることもありました。明確な契約書は交わさないため、お互いに来年の保障はありません。実力主義社会で、信頼とコミュニケーションをもとに約束を交わしていました。そのため杜氏側も技術力を上げるため、杜氏組合に所属して、組合内で技術力を高めるため勉強会や情報交換がおこなわれていました。技術は公に開示されず、杜氏がたやすく人に伝えず、秘密にしていました。しかし高齢や健康問題を理由に杜氏が突然辞めなければならなくなるリスクもあるため、杜氏の下には「頭(かしら)」と呼ばれるNO.2が、技術を見て覚えていました。  冬期間毎日寝食をともにしていたので、お互いの人柄がよくわかります。高い醸造技術を持ち、チームみんなの力を発揮できる杜氏は、人格的にも優れていることが多く、厳しいけれど尊敬され、「いつか彼のようになりたい」と蔵人から憧れられていました。酒造りは暑い環境が大敵のため、寒い時間帯におこなうのが良いとされています。そのため、早朝から作業をスタートします。朝早い酒蔵は、2時や3時など日の出前から夕方4時ころまでの就労(かつては夜11時から仕事スタートという酒蔵も!)。一晩中、数時間おきにしなければならない作業もあるため、交代制で仮眠を取りながら、作業にあたりました。  現代の酒蔵のスタイル 農家や漁師に専業する人が減った現代は、杜氏組合に所属する人たちが高齢化しています。また近年では、長時間労働は良くないとされており、酒蔵もそれは同様です。そのため経営と製造の両方を蔵元が担う「蔵元杜氏(くらもととうじ)」が増えました。蔵人も、正社員として年間を通じて酒蔵で働くのが一般的になってきました。彼らは酒蔵以外の一般的な会社同様、近隣にある自宅から毎日通います。   「辛い仕事」というイメージのままでは、若い人たちを新規雇用することが困難になります。だから夜中の仕事をなくすため、人間の代わりに麹づくりの仕事をしてくれる機械(自動製麹機)が研究され、発達しました。今では手作業と同様か、それ以上の品質の物が作れる、という実績から、多くの酒蔵が導入しています(それぞれの酒蔵の考え方による)。そのため朝8時から夕方5時までで仕事が終わる、という酒蔵も増えています。もちろん江戸時代から続くスタイルを続けている酒蔵は、今も多く存在します。 まとめ 現在では酒造業界外の会社や人が、廃業を検討している酒蔵を買収して、酒造をスタートするケースも増えています。異業種の文化が持ち込まれ、酒造りのシーンも変化してきている途中です。150年以上伝統を大切にして、変化がなかった酒造業界ですが、「発酵学」によって微生物のメカニズムが解明されてきたことや機械の進歩によって、今変わろうとしています。

スパ ー クリング 日本酒 、 熟成酒 ...... 特別 な 日本酒 について

スパ ー クリング 日本酒 、 熟成酒 ...... 特別 な 日本酒 について

▲左から7年熟成、12年熟成、21年熟成の日本酒  原料に日本産米を用い、日本国内で醸造したアルコール22度未満のもののみを「日本酒(清酒)」と呼びます。そのなかでも、スパークリング日本酒、熟成古酒、貴醸酒、金粉入りの日本酒、古代米の日本酒など少し風変わりな日本酒もあります。ひとつずつ紹介しましょう。   スパークリング日本酒 シュワシュワした発泡性の日本酒のことをいいます。日本では炭酸を含んだお酒で(主にビール)乾杯することが多いため、乾杯のためにつくられた日本酒という意味もあります。またのど越しも良く、爽やかな飲み口が心地よいため、新しい愛飲家を増やすための入り口としても期待されています。料理とも合わせやすいのが特長です。瓶内二次発酵の自然な炭酸ガスのものと、後からガスを充てんするタイプの2種類があります。    1940年以前より製造されていたらしいのですが、一般的になったのは1990年以降のこと。なかでも一ノ蔵(宮城県)が1998年に発売した「すず音」は、日本全国で一躍人気になりました。「獺祭スパークリング」も1993年に誕生したそうです。2011年には松竹梅「澪」が誕生し、今ではコンビニエンスストアにも置かれる身近な存在になりました。   AWA酒   スパークリング日本酒のひとつのジャンルとして、2016年には一般社団法人awa 酒協会が設立されました。発起人は「水芭蕉」醸造元・ 永井酒造(群馬県)。現在30蔵が加盟済み。本協会は、厳格な品質基準と第三者機関での検査をクリアした銘柄だけを「AWA SAKE」と認定しています。 稲作と共に伝承されてきた日本の宝・日本酒。それなのに1973年を境に国内では需要が減少。現在では当時の4分の1ほどに落ち込んでいます。品質は向上し、原価は上昇の一途をたどっているのに、価格を上げられない状況が長年続いてきました。現状を打開すべく「本物」を追求し、技術を継続的に向上させ、世界に打って出ることで、日本酒の価値を再定義しようとしているのがawa酒協会です。基準を設けることで、品質向上が期待でき、認定された「AWA SAKE」なら安心、というイメージから普及促進、市場の拡大が期待されます。『世界で通用する乾杯酒』が彼らの目標であるため、世界中で活躍するソムリエの田崎眞也氏、フランスソムリエ界の若き重鎮・グザビエ・チュイザ氏、トップソムリエのフィリップ・ジャメス氏をAWA SAKE大使として迎えています。近年ではInternational Wine Challenge Sake部門、Kura master、フェミナリーズなど海外の鑑評会でも、AWA SAKEは高く評価されています。   熟成古酒 日本酒に賞味期限はありません。ただしメイラード反応が進み、味わいと色が変化します。酒蔵が製造する熟成酒としては、1年、3年、5年といったものから10年、40年以上など熟成させたものなど幅広く存在しています。年数に厳密な決まりはありません。40年経過した日本酒は飴色になり、味わいもカラメルや黒糖のようになることが多いです。 「古酒」「熟成古酒」「熟成酒」「長期熟成酒」など呼び方もまちまちです。また吟醸酒、純米酒、本醸造酒などの「特定名称酒」ではないため、ラベルへの表示義務はありません。酒蔵ではなく、酒販店が独自に熟成させて販売しているものも存在します。   長期熟成酒研究会では、熟成古酒とは、酒蔵で3年以上熟成させた清酒のことを指します。長期熟成酒研究会とは、熟成古酒の製造に関する技術交流と市場の開発を目的とした、酒造会社による任意団体で、昭和60年(1985年)に設立されました。   貴醸酒 貴醸酒(きじょうしゅ)とは、三段仕込みの最後「留仕込み(とめじこみ)」において、仕込み水の代わりに清酒を入れて仕込んだ、日本酒のことです。通常の日本酒に比べてかなり糖度が高く、とろりと上品な甘さがするお酒です。貴醸酒は、1973年に迎賓館など、海外のお客さまを招き乾杯するための高級日本酒として開発されました。作り方などは違いますが、味わいや高級感などは貴腐ワインと並べて語られることが多いです。そのため食後酒として親しまれています。日本人でも「貴醸酒」の存在を知っている人はあまり多くありません。   古代米の日本酒 日本酒は、酒米や一般的な食用米(コシヒカリなど)からつくられることがほとんどですが、赤米や黒米などの古代米からつくられる日本酒もあります。特に京都府にある向井酒造の「伊根満開(いねまんかい)」が有名で、海外への輸出もおこなっています。通常より旨味や苦みなどが多く、ユニークな味わいが特徴です。酒の色も、米の色素由来で赤色や赤褐色になります。   金箔入りの日本酒   今回紹介する他の酒と違い、醸造方法や貯蔵方法によるものではなく、飲み方のひとつのスタイルです。正月や祝いの席などおめでたいことがあった時に、飲まれる日本酒です。通常の日本酒に金箔が入っているだけですが、透明な液体に沈む輝く金箔は美しく、大勢でお酒を飲む際に重宝されます。酒蔵がボトリングのときに金箔を入れて販売する場合と、何も入っていない日本酒に別で購入してきた金箔をあとから入れる場合があります。若者よりは、高齢者に好まれています。  まとめ ワインがそうであるように、日本酒もさまざまなものがあります。タイプを把握して、通常の日本酒との違いを理解しないと、同じように並べて比べることはできません。同じ「日本酒」として飲んでしまうと、きっと驚いてしまうでしょう。ラベルをよく読み、タイプ別の楽しみ方をしてみてください。

角打ち、居酒屋、日本酒バー、祭り…日本で日本酒が飲まれるシーンについて

角打ち、居酒屋、日本酒バー、祭り…日本で日本酒が飲まれるシーンについて

▲北海道・札幌の繁華街  日本に住む人がみんな日本酒をよく飲むわけではありません。特に自宅で日本酒を楽しむ人は少なくなっています。その理由は「アルコール度数が高い」「他のお酒よりよく酔う」という思い込みや、食生活が西洋化したことです。でも、お酒の選択肢が増えた今でも、昔と変わらず私たちの身近に日本酒はあります。人々は気づかないうちに「この時は日本酒を」と決めたり、特定の料理に合わせて日本酒を選んだりしています。  現代の日本人がどんな場所で日本酒を飲むのか。居酒屋、日本酒バー、角打ち、寿司屋、蕎麦屋、割烹料理店、レストラン、バー、冠婚葬祭などのイベント。ひとつずつ説明していきます。 居酒屋   居酒屋には、1000円でおつまみとお酒が楽しめる安い店(千円でベロベロに酔える、という意味で「センベロ」と呼んだりする)から、1人1万円以上の高級店まで、さまざまです。  しかし、一般的にはカジュアルな雰囲気の飲食店で、日本酒やビール、チューハイ、ハイボール、焼酎など様々なアルコールと多種多様な料理を提供しています。料理は比較的手頃な価格で提供されることが多く、塩辛やポテトサラダなどのおつまみから、刺し身、おにぎりや肉料理や麺料理などのメインディッシュまで幅広いメニューがあります。日本酒は1合(180ml)ごとに徳利に入れられ提供されることが多いです。  気軽に利用できる社交の場として、友人との集まりや、同僚と「今日飲んで帰らない?」と言って会社帰りに立ち寄ることが一般的です。   日本酒バー    日本酒バーは、日本酒に特化した飲食店で、現在人気を集めています。居酒屋が料理もしっかり食べられる場所で酒がわき役であるのに対し、日本酒バーは酒がメインであることが多いです。また店員も日本酒を愛する人が多く、専門知識を持つことがほとんどです。「こんな味わいの酒が好き」「はじめて日本酒を飲みます」と状況や要望を伝えることで、オススメの日本酒を選んでくれるので、初心者にも安心です。 店によりますが、料理とのペアリング体験を提供しているところもあります。日本酒は合わせる料理や飲むグラスで味わいが変化するのが魅力です。そのような楽しみ方のナビゲートをしてくれるのが日本酒バーです。日本酒はグラスに注がれて提供されることが多いです。さまざまな種類を少しずつ飲んで欲しい、という店の想いが込められています。  専門知識を持つスタッフがお客みんなの要望を聞きながら営業するため、店が狭いことが多いので、1人か2人など少人数で行くのがオススメです。   角打ち ▲東京・蒲田駅にある「旭屋」  角打ちとは、日本特有の飲食スタイルのひとつで、主に酒販店の一角を利用して、購入した酒をその場で立ち飲みすることです。この文化は昔からあり、元々は酒屋が試飲を目的に店内で酒を飲ませたことから始まりました。 立ち飲みスタイルで、低価格のことが多いです。酒販店は周囲の居酒屋など飲食店に酒を卸していることがほとんどなので、フードは簡単なものが多く、しっかり食事する場合は「飲食店へどうぞ」という住み分けをしていることが多いです。気に入った酒をボトルで買って帰ることができるのは酒販店併設の「角打ち」のメリットです。 寿司屋     日本古来からの寿司と日本酒。非常に相性がよく、日本人にとって馴染みのある組み合わせです。普段はウイスキーを愛する人でも「寿司屋では日本酒を飲む」という人が多いです。 米からつくられる酒なので、もちろん寿司にもピッタリ合います。シャリとネタの旨味と、日本酒の旨味が合わさり、美味しさの相乗効果を生み、贅沢なひと時を演出するでしょう。鮮魚独特の臭みを消してくれる効果も期待できます。  シャリに含まれる酢(米酢や穀物酢、赤酢など)の種類によって、どんな日本酒が合うかは変わります。寿司屋では寿司がメインなので、日本酒の種類をたくさん置く店は多くありません。寿司屋では、好みや料理とのペアリングなど何も考えずに「辛口の酒をください」という客を多く見ます。私はあまりかっこいいものではないと思います。若い店主が寿司だけでなく、日本酒も勉強をしている店も増えているので、店のスタッフにオススメを聞くのがよいでしょう。   蕎麦屋 ▲海苔で蕎麦と具材を巻いた「そば巻き」 ▲ざるそば(東京・かんだやぶそば)  蕎麦と日本酒を楽しむのは、江戸時代の粋な「江戸っ子」の文化です。江戸っ子とは、江戸(現在の東京)で生まれ育った人を指しますが、それだけでなく、性格も特徴的です。江戸時代はようやく訪れた日本の平和な時代。商売が盛んになりました。どんどん建物が建設され、人々が集まりました。当時の人々はせっかちで、商売人らしく明るく社交的、コミュニケーションを大切にしました。困難があってもひらめきやユーモアで乗り切る対応力が豊富で、流行りものが好きで、そして火災が多かった時代なのでみんなで地域を守るために、地域を愛し「自分は江戸っ子である」というプライドが高く、頑固者が多かった。 そんな時代に生まれた蕎麦の文化。働く商人や武士などをターゲットとして、食事も取れてお酒も飲める場所として需要を高めました。江戸っ子的にいえば「いっぺんに完結するなんて手っ取り早いじゃないか!」ということです。  当時は現代のようにそばを作り置きしておくことができなかったため、注文が入ってからそばを打って切り、茹でていました。そばの提供まで時間がかかるため、軽いつまみを食べながら日本酒を飲んで、そばを待っていました。このスタイルを"蕎麦前(そばまえ)"と呼びます。 あっさりとした板わさなどから始めて、だし巻き玉子、炭で炙りながら食べる海苔、天ぷら(天抜き)という順番で食べていました。今でも私は東京の「藪そば」でこの楽しみ方をしています。日本酒は冷酒でも熱燗でもお好みで。 メインの蕎麦は、出汁たっぷりの汁と日本酒が最高に合います。汁と日本酒を交互に楽しむと、あなたも江戸っ子気分を味わえます。    割烹料理店・料亭   ▲季節の素材を入れた炊き込み土鍋ご飯 「日本料理を食べる時には、日本酒を合わせたい」という日本人も多いです。割烹料理店は、日本料理の伝統的な調理法を守りつつ、季節の食材を使った高品質な料理を提供する高級飲食店です。コース料理が中心で、料理は一品一品丁寧に調理され、繊細な味わいと美しさが特徴です。店内の雰囲気は落ち着いており、席数も少なく、接客も非常に丁寧です。お祝い事や接待、特別なディナーに利用されることが多いです。  割烹料理店や料亭では、単価が高く、希少な日本酒を置いていることも多いものです。メニューには載せず、お客を選んで出す場合もあります。仲良くなって特別な日本酒をオススメしてもらいましょう。  レストラン ▲イタリア料理と純米酒の燗酒を合わせる ▲クリームを使った料理と生酛や山廃仕込みの酒はよく合う 日本国内のイタリアン、フレンチ、ベトナム料理など日本食料理以外のレストランでも、最近は日本酒を置く店が増えています。繊細でバランスの良い日本酒の味わいが見直されてきた証拠です。特にソムリエはテイスティング能力が高く、五味(ごみ)と呼ばれる味わいのバランス(甘味、塩味、酸味、苦味、旨味)の内、日本酒は、塩味以外を持っています。他の酒に比べて旨味も量も多いです。だから日本酒を合わせると、より美味しく料理を食べることができます。ワインではなく、あえて日本酒を合わせるというところに意外性やおしゃれさを感じる日本客が多いです。 この20年ほどでさまざまな味わいの日本酒が増えたことに加え、世界各国の料理で日本の調味料やスパイスを使用することが増えたのも理由のひとつでしょう。日本酒と料理とをペアリングしやすくなったのかもしれません。 小料理屋 小料理店は、割烹料理店よりも少しカジュアルながらも、こだわりの料理を提供する小さな飲食店です。主に女性店主が切り盛りすることが多く、アットホームな雰囲気で、料理は旬の食材を活かした手作り感のあるメニューが楽しめます。割烹ほど格式高くはなく、居酒屋ほどカジュアルでもない、中間的な位置づけの店が多いです。日本各地で、小料理屋と日本酒バーの中間のようなスタイルの店が増えています。   祭りなどイベント 日本では古くから祭事やお祝いなどで日本酒を飲む習慣があり、祭りの原点である田んぼの神様への豊作祈願や収穫後の感謝の捧げ物として日本酒が用いられていたことが由来とされています。春には日本人にとって生命線ともいえる主食の米がたくさん収穫できますようにと祈りを込めて、秋には収穫できたことへの感謝の意味で祭りをおこないます。だからこの時、神に捧げられ、みんなで飲み交わす酒は日本酒でなくてはならないのです。  ※詳しくは「日本人と日本酒との関係」を読んでください。 冠婚葬祭 冠婚葬祭の席では、日本酒をはじめとするお酒は欠かせないものです。神道(しんとう)※におけるお供え物としては最適品とされています。故人がお酒を好きだった場合は、お墓参りに行く際に日本酒をお供えするのも一般的です。また日本酒には“清める”という効能(意味)もあると日本人は古くから信じてきました。四十九日※の後、死の穢れを清める意味(死者と生きた人間の世界を分けるというようなニュアンス)でお酒が出されます。これは海外の酒ではいけませんし、焼酎や泡盛でもだめです。※神道・・・は、日本の古代から続く宗教で、自然や祖先、そして多くの神々(神)を祭る信仰です。神道の特徴は、特定の創始者や聖典を持たない点にあります。その代わり、自然現象や山、川、石など自然界のあらゆるものに神が宿ると考えられています。これを「八百万(やおよろず)の神」と呼び、自然や生活の中に神々が存在するという考え方が根底にあります。 ※四十九日・・・日本の仏教において重要な追善法要(ついぜんほうよう)の日です。これは、亡くなった人の死後四十九日目に行われる儀式で、死者の霊がこの世を離れ、次の世界へと進むための準備期間とされています。   ▲鏡開きのための酒樽(さかだる) 反対に、結婚式でも日本酒は使われることが一般的です。樽の中に日本酒を入れて、上部に板を貼りふたをして、木槌で割ります(割るという言葉は縁起が悪いことを連想するので、開くといいます)。樽のふたは丸くて平らな形から「鏡」と呼ばれており、樽のふたを割って酒を飲むことを「鏡開き」と呼んでいます。樽酒は縁起の良いお酒としてお祝いの席などで振る舞われてきました。大きな酒樽を皆で分け合って飲むことから、「幸せを分かち合う」という意味合いも持ちます。日本酒は“祝い”の意味も持つのです。 ※詳しくは「日本人と日本酒との関係」を読んでください。 まとめ 「日本酒は飲みません」という日本人でも、同僚がいつも居酒屋で日本酒を飲んでいる、結婚式には鏡開きをした、など日常生活に深くかかわっているのが日本酒です。日本を訪れて日本酒を飲む時の参考にしてみてください。  

日本酒の保管について~酒蔵を廃業に追い込む「火落ち」

日本酒の保管について~酒蔵を廃業に追い込む「火落ち」

日本酒は、スピリッツ酒と違ってアルコールがそこまで高くなく、とても繊細なお酒です。貴重な米を削り、最高の技術を使ってつくっても、その後の保管によって味わいが大きく変わってしまいます。最高級の日本酒も、まずくなるのです。 酒蔵は、自分たちの酒をわが子のような気持ちで大切にしています。だから大切につくるだけでなく、正しい味で皆さんの手元に届き、おいしく飲んで欲しいと願っています。日本国内での運送はもちろんのこと、輸出時の運送方法についても熟考しています。  「紫外線」「温度変化」「振動」を避ける 日本酒は、「紫外線」「温度変化」「振動」が苦手です。  「紫外線」 太陽光は避けましょう。酒屋の店内と冷蔵庫の灯りは、LEDライトにするべきです。たとえば紫外線を防がず、窓際に液体の入った日本酒ボトルを陳列している店では購入しないでください(中身が入っていない、あるいは水が入っている装飾用のサンプルボトルが飾られていることもよくありますが、それはOK)。 家で長期間保管する時には、新聞紙で包むか箱に入れて光を遮ると良いでしょう。  「温度変化」 日本酒の味わいのコンセプトや作り方(スタイル)によっても異なりますが、冷蔵庫に入って売られていた日本酒は冷蔵庫で保管してください。常温の棚に置かれていた日本酒も、戸棚のなかなど光があたらず、あまり温度が変わらない場所に置くことをおすすめします。冷蔵庫に入れて保管できるならそれが最善でしょう。人がいない時の室温は、一年を通して大きく変動することが多いでしょう。たとえば日本の家なら、夏場30℃、冬には5℃など。人間が不快に感じるように、大きな温度変化は酒にとってストレスになり、味わいが変わる原因になります。温度が一定の場所に置きましょう。   「振動」 振動も、日本酒の味わいが変化してしまう原因のひとつです。水の分子が崩れてしまい、酒蔵が意図した味わいのバランスが壊れてしまいます。保管時は、あまり移動させず安静にすることが大切です。   生酒の保管は特に注意が必要   火入れをしていない生酒は、火落ち菌の繁殖を防ぐため、氷温(日本ではマイナス5℃が一般的)で保管するのが理想的です。そのため多くの酒蔵は生酒も海外に届けたい、と願いながら、冷蔵コンテナで大量に運ぶことはコスト的に現実的ではないため、火入れの酒が多く流通しています。かつては日本でも同様でしたが、冷蔵運送の発達や酒屋の知識と設備向上によって、現在では生酒は年間を通じて流通するようになりました。   火落ち(ひおち)とは? 火落ち(ひおち)とは、製造している日本酒が貯蔵中に白濁して腐造することをいいます。にごり、うすにごりの日本酒ではないのに、白い筋が見えるものは要注意です(ほとんどの場合は、かすかな澱が浮遊しているだけ)。 火落ちは、“火落ち菌”と呼ばれる特殊な乳酸菌が繁殖することで起こります。通常、細菌はアルコールに弱いのですが、火落菌はアルコール25%の酒のなかでも生育できます。アルコールへの耐性が強いのです。 火落ちすると、日本酒は白濁し、一般に酸の生成、特異臭(火落臭)の発生を伴い、人間が生理的に「飲みたくない」と思う状態になります。乳酸菌なので、飲んでしまったからと言って健康には一切悪い影響がありません。しかし火落ちが発生してしまうと、そこから二次汚染が発生することもあり、製造現場にとっては一大事。かつては「火落ち」が発生して、廃業に追い込まれた酒蔵もあったそう。 近年では、ろ過の性能が上がり、さらに貯蔵温度を管理できる酒蔵が増えたため極めて少ないケースです。しかし稀に、生酒を常温など高い温度で保管・移動することで、瓶内で眠っていた菌を起こすことがあるので、細心の注意が必要です。   日本酒は熟成を楽しめる酒   最悪のケースを紹介しましたが、特に火入れの酒は安心です。日本酒は繊細な酒、といってもワインのように酸化を恐れる必要はありません。メイラード反応による、香味の変化を楽しむことができます。そのため40年物の古酒やそれ以上の熟成酒も存在します。 メイラード反応とは、食材に含まれる糖とアミノ化合物(アミノ酸やタンパク質など)を加熱して、メラノイジンという褐色物質を生成させる反応です。メイラード反応によって、香ばしい風味、食欲をそそる色合いが増します。日本酒は年月を重ねてカラメルのような芳ばしい香りがし、甘みが深くなり、色は琥珀色のようになっていきます。 詳しくは、日本酒のエイジングについてご覧ください。   日本酒のオークション購入や正規店以外からの購入は注意 日本酒の管理は、「紫外線」「温度変化」「振動」を避ける必要があります。そのため酒蔵は、日本酒への基礎知識を持ち、自分たちの酒を理解し、大切に扱って消費者に届けてくれる「特約店」との契約を結んでいることが多いです。だから専門業者なら、日本国内、海外ともに知識を持っているはずです。しかし素人がオークションなどで貴重な銘柄を販売していることも多いです。高価なのに保管状態が悪く、味わいが変わってしまい、本来の美味しさが伝わらないことがほとんどです。注意が必要です。  詳しくは「日本酒の特約店制度とは」をご覧ください。 まとめ 日本酒は新鮮な生酒から火入れ酒、熟成酒などさまざまな味わいを長期的に楽しめるお酒です。どんな管理をしていても飲むことはできます。しかしどうせ飲むなら、酒蔵が緻密に計算した「飲んで欲しい」と思っている味わいで楽しみたいものです。日本酒の保管にはコツが必要です。正しい知識を持ったプロから最適な状態の日本酒を購入して、自宅でも正しく保管してください。  

日本酒醸造用の専門米・酒米について

日本酒醸造用の専門米・酒米について

世界に存在する米は、大まかにわけて「アフリカイネ」と「アジアイネ」2種類あります。「アフリカイネ」はアフリカの西部でごくわずかに生産されているだけで、現在栽培されているほとんどのイネは、「アジアイネ」です。「アジアイネ」は、「ジャポニカ種(短粒種)」と「インディカ種(長粒種)」に分類されます。さらにそれぞれのでんぷん成分によって「うるち米」と「もち米」に分類されます。   日本酒醸造用の「酒米=酒造好適米」は、「アジアイネ」の「ジャポニカ種(短粒種)」のなかの「醸造用玄米」に分類されます。日本の農林水産省の規定によって、食用の米とは別で管理されています。   なぜ酒米=酒造好適米が必要?   日本において、食用の米はモチモチとした食感で、適度に粘り気があって、甘みのバランスが良い味わいが好まれます。しかし粘り気のある食用米は、日本酒のための米麹をつくりにくいのです。麹菌を振りかけ、一粒一粒ムラがないようしっかりと米の内部まで菌糸をのばし、日本酒づくりに最適な麹をつくるよう麹室(こうじむろ)という専用部屋で作業をしますが、その際に粘り気があって粒々とがくっつきベタベタしていると、蔵人が適切な作業をしにくいのです。   良い酒米の条件 <精米で砕けにくい> また米の表層部分にはたんぱく質や脂肪などが多く、それらは酒の雑味に繋がります。だから食用米はだいたい90%程度の精米ですが、酒(さか)米(まい)は20%、50%、80%…とつくろうとする酒の品質によってたくさん精米します。多くの精米をしても砕けずに形を留める必要があります。   <心白がある> 酒米には、米の中心に「心白(しんぱく)」と呼ばれる白色不透明な部分があります。これはでんぷんの結晶が集積し、周囲に比べてすき間があいているため、光が乱反射して、白濁して見えるのです。周囲より柔らかい心白部分に麹菌の菌糸がしっかりと根を伸ばすため、酵素力を持つ良質な麹米になりやすいのです。ただし心白は大きすぎても砕ける原因になるため、適度な大きさが良しとされています。タンパク質が少ないことも良い条件のひとつ、といわれています。   酒米にもグレードがある   ▲特等を獲得した山梨県産山田錦 研究機関で品種改良して良質にされた酒米を、農家が大切にこだわりぬいて田んぼで育てても、その年の気候や管理方法によって収穫される米の品質は異なる。毎年、米の品質は審査される。酒米は整粒歩合※によって、特上、特等、一等、二等、三等、規格外の6段階に分けられる。食用米は4段階なので、より細かく規定されていることがわかるだろう。いくら心白が大きく、良質な酒米品種でも、等級が低ければ米の割れも多く、心白の役割を発揮することができないため、等級は重要。また特定名称酒をラベルするには、三等以上の米しか使うことができません。特定名称酒の説明は、【WHAT'S “Nihonshu”? そもそも日本酒ってなに?】の記事を読んでください。 ※整粒歩合=米の状態を判断する基準のひとつで、一定量の玄米の中に存在するきちんと整った形をしている米粒の割合を%で示した指標のこと。   精米、精米方法、精米機     稲から丁寧に育て、丁寧に収穫し、細心の注意を払って乾燥し、丁寧に精米してから、ようやく醸造家の手元に届きます(もちろん自社精米をする酒蔵も多数ある)。純米吟醸酒・吟醸酒は60%以上、大吟醸酒・純米大吟醸酒は50%以上、酒米を磨く必要がある。たくさん磨くと、摩擦熱によって米が熱を帯びて割れやすくなります。そのため割れないようギリギリの速度で、より多くの時間をかけてじっくりと精米する必要があるのです。 酒米用の精米機を製造しているのは、株式会社サタケ(広島県東広島市)と新中野工業株式会社(岡山県岡山市)の2社だけ。それぞれ独自の技術をつめこんだ機械を販売しています。アメリカやその他海外向けにも販売しています。ただし機械は高額なうえに、巨大だから簡単に買えるものではありません。そこで日本には数か所、みんなで出資して共同で使える精米所(搗精工場)や委託精米できる搗精工場があります(食用米だともっとたくさんある)。   酒米のおもな種類について   ▲剣菱酒造が契約している山田錦の圃場   酒造好適米は、100種類以上あります。ただし代表的な品種で、各地で栽培されている山田錦(やまだにしき)、五百万石(ごひゃくまんごく)のふたつを合わせると作付面積の60%以上になります。その他にも雄町(おまち)、美山錦(みやまにしき)、亀の尾(かめのお)、八反錦(はったんにしき)、愛山(あいやま)、千本錦(せんぼんにしき)、出羽燦々(でんわさんさん)、越淡麗(こしたんれい)などがあります。 米の品種によって、育てることができる地域が異なります。「酒米の王様」と呼ばれ、醸造に適している山田錦が栽培できる北限は現在、新潟県といわれています。独自の酒米品種と独自の酵母があれば都道府県の日本酒の特色にもつながりやすいため、各地にある食品技術センターなどでその土地に適した酒米が研究開発されています。 寒い北海道では酒米が育たない、といわれていましたが、2000年に「吟風(ぎんぷう)」、2006年に「彗星(すいせい)」、2014年には「きたしずく」が優良品種として認定されました。温暖化が進む将来のために、全国の酒蔵が北海道産米に注目しています。   なかには食用米でつくる蔵もある   京都府・白杉酒造や、群馬県・土田酒造などはあえて食用米だけを使った酒づくりをしています。酒蔵のすべてではないですが、一部商品は安く手軽に飲んで欲しい(特に酒蔵の地元地域の人たちに)日本酒だけは食用米を使う酒蔵は全国にもたくさんあります。また古代米を使用した赤色の日本酒という変わり種も存在します。 それから甘みをプラスするため、三段仕込みのあと、四段目にもち米を投入する「もち米四段」という技術もあります。自社の醸造の特色として打ち出している酒蔵もありますし、特に記載することなく技術を取り入れている酒蔵もあります。   まとめ   日本酒の原材料である米の良し悪しは、完成する酒の品質にも大きく影響を及ぼします。だから米作り、もっと深く考えると田んぼの土壌づくりから日本酒づくりは始まっているとも言えます。 高品質の酒米をたくさん磨いて使えば、雑味の少ないキレイで美味しい日本酒が完成しやすくなります。しかしひと昔前に比べて発酵学が進歩し、より良い醸造方法の情報が交換され議論されるようになり、冷蔵設備が整い、より衛生管理ができる道具が誕生するなど、前よりも安定しておいしい日本酒がつくりやすくなってきました。各酒蔵の個性を出すことが現代のテーマとも言えます。その点選択肢も広がっています。酒米を使用するか食用米を使用するか。あえてあまり精米せずに日本酒をつくるという選択肢もあります。酒蔵では、生産者や生産地選択、原料選択から出荷まで、あらゆる最善の選択をして日本酒をつくり、みんなに届けているのです。

酒米研究会について

酒米研究会について

日本酒づくりには、米、水、酵母、醸造技術が大事だと言われています。特に原材料である“米”を作るためにはいろいろな人が関わっています。広く知られているのは、農家の存在ですが、米の品種改良、種作り、苗作り、収穫した米の品質をチェックして「今年の米はどんなことに注意すべきか」を考える研究など、いろいろな工程が隠されているのです。日本人にもあまり知られていない日本酒づくりの裏側…酒米の世界についてご紹介します。  酒米とは?   日本において、食用の米はモチモチとした食感で、適度に粘り気があって、甘みのバランスが良い味わいが好まれます。しかし粘り気のある食用米は、日本酒のための米麹をつくりにくいのです。麹菌を振りかけ、一粒一粒ムラがないようしっかりと米の内部まで菌糸をのばし、日本酒づくりに最適な麹になる作業をしますが、その際に粘り気があって粒々とがくっつきベタベタしていると、蔵人が適切な作業をしにくいのです。そこで日本酒醸造専用の米「酒米」が存在します。 詳しくは、「日本酒醸造用の専門米・酒米について」の記事をご覧ください。   酒米研究会とは?   ワインが毎年のブドウの出来をワインにも反映させ、異なるビンテージの味わいを楽しむのに対して、日本酒は基本的にできるだけ毎年均一な味わいを目指しています。そこで年によって異なる出来の米が届くのに対して、「今年の米は溶けるの?」「割れやすいの?」「水は多くした方がいい?少なくした方がいい?」という科学的分析値をいち早く手に入れ、対応したいのです。  酒米研究会は1976年に日本酒造組合中央会※からの要請で発足された、唯一の全国にまたがる学術的な酒米専門の研究団体です。かつて日本酒の原料米の分析や酒造適性の調査項目は決められておらず、地域や機関ごとにばらばらだったため、比較検討が困難で、さらに手分けして分析をおこなうこともできませんでした。  毎年使用される原料米に適切な酒造管理を行う必要があります。そのため原料米の性質を速やかに精査することが急務だったため、酒米研究会は発足の1976年に「全国酒米統一分析」を制定しました。現在、会員は各地の農業技術センターなどの研究機関、大学、酒蔵、酒米生産者を含め270を数えます。 過去に蓄積されたデータを解析し、多様な会員構成を活かして統一分析の結果を情報交換・意見交換することと、育種、栽培法、環境、醸造分野など酒米に関する研究動向を把握することを目的とし、「酒米研究会」「酒米懇談会」と年2回、集まる機会を設けています。 酒米研究会の重要なカテゴリは、育苗、生育、醸造適性です。    ※日本酒造組合中央会・・・酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律に基づき、酒税の保全及び酒類業の取引の安定を図ることを目的として設立しました。また、会員同士の交流や情報交換を促し、酒類業界の発展のために必要な事業を行う国の機関です。さらにその下に、各都道府県の酒造組合が存在(いずれも独立した公益法人)しています。 組合員数1,637(清酒1,358、単式蒸留焼酎267、みりん二種12)2023年12月現在 取材で訪れた酒米研究会「第46回 酒米懇談会」の内容について   研究会に所属する会員しか参加できないイベントに、私は取材で行きました。この日は5名の登壇者が、研究成果や普段の企業活動について発表しました。  ① 新潟県醸造試験場 菅原氏 酒の香味に大きく影響を及ぼす酒米の溶解性について、玄人でも初心者でもどんな研究員でも正確に推定する方法を開発中。現段階での研究成果を発表しました。2023年夏は猛暑日が続いた影響か、酒米の品質があまり良くない可能性が高いといいました。特に異常な猛暑になった新潟県の酒米「五百万石」は溶けにくく、溶け始めると急激に溶けるので、日本酒づくりには注意が必要かもしれない、といいました。   ② 山本製作所(山形県) 山形県にある山本製作所は、農業関連機器 · 精米関連機器 · 環境関連機器を販売する会社。結城氏は、酒米の乾燥の大切さを語りました。「いかに田んぼから品質を落とさず酒造現場に持っていくか」という理念のもと開発された米乾燥機の特性や、水分量のばらつきの抑え方など、乾燥機を購入した人に直接注意点を指導している、という仕事現場の様子を共有してくれました。   ③ 長野県農業試験場 青木氏 酒米研究会という名前は、実は日本全国に存在します。ここまで全国に広がり大きな団体ではなく、各地域のコミュニティです。長野県にも、2013年に酒蔵が出資して発足された「長野県酒米研究会」という団体があります。青木氏からその成り立ちについて語られました。 そして長野県の酒米新品種「山恵錦(さんけいにしき)」について。「山恵錦」は長野県の農業試験場でただ種を開発するだけでなく、何度も何度も日本酒の製麹に適しているのか繰り返し実験した、という前代未聞の開発方法が採用された優秀な酒米品種。現在も酒蔵と連携して、品種改良を続けています。   ④ 飯田商事㈱ 河野氏 飯田商事は、日本酒やワインなど酒類食品総合卸売、酒蔵の経営、醸造用原料の販売などを手掛ける会社。子会社に「新中野工業」という醸造用専門精米機メーカーを持ちます。国内外で醸造用専門精米機を販売するほか、日本の数拠点と委託精米を受託しています。 1998年にカリフォルニア州サンフランシスコに子会社「IIDA Sake Rice Inc.」を設立し、精米所を米国最大の穀倉地帯・サクラメントに持つ飯田商事。米国における酒米搗精や醸造所事情、米国産中粒種の特性などについて発表しました。   ⑤ 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 長田氏 長田氏は、酒米だけでなく米全般の胴割れ(どうわれ)の原因と対策について話しました。 胴割れとは、適期を遅れて収穫したり、登熟(米が出穂後に成熟していくこと)初期に高温にさらされることで、乾燥しすぎて米の内部にヒビが入ることをいいます。「胴割れ」してしまうと、酒造用に精米したら割れてしまうため使用することができません。温暖化が進む現在、胴割れを防ぐことが研究者の急務です。   以上、当日語られた内容をかいつまんで話しました。   國酒である日本酒のために   日本酒をつくるための酒米づくり、酒米開発には、酒蔵や農家だけでなく、日本国の機関、日本全国の研究所や農家が集まった団体などさまざまな人たちが尽力しています。日本酒は名前の通り「日本」を背負った國酒。より安全に、より美味しい製品ができるよう今日も研究をつづける人たちがいます。

杉玉ってなに?~日本酒のおいしい飲み頃をお知らせします

杉玉ってなに?~日本酒のおいしい飲み頃をお知らせします

 ▲新酒ができる冬の時期の杉玉   ▲日本酒が熟成してきた頃の葉が枯れて茶色くなってきた頃の杉玉   杉玉(すぎたま)とは、杉の枝を差し込んでいき、表面に葉の穂先を集めてボール状にした造形物です。酒林(さかばやし)とも呼ばれます。 杉玉は、日本酒の酒蔵の軒先に吊すことで、新酒が出来たことを知らせる役割があります。作ったばかりの緑色の杉玉が軒先に見えたら「新酒ができました」の合図です。また杉の葉は次第に枯れて茶色く色づいていきます。この色づきで、日本酒の熟成具合を知ることができます。杉玉を雨風から守るため、上に三角形の傘がつけられている物もあります。   杉玉の由来   杉玉は、奈良県にある日本最古の神社、大神神社(おおみわじんじゃ)のもの、とされています。大神神社は、「日本三大酒神神社」にも数えられ、多くの日本酒醸造家たちが酒造り前にお参りに訪れます。大神神社の拝殿と祈祷殿の向拝には直径1.5m、重さ150kgにもなる大杉玉が吊されており、一年に一度、11月14日の醸造安全祈願祭(酒まつり)の前日に青々としたものに新調されます。 かつて各地の蔵人がそ大神神社にお参りに訪れた時、神社の御神体である三輪山の杉の葉を酒造りのお守りとして持ち帰ったことに由来します。やがて丸くまとめ形が整えられるようになりました。そして江戸時代ころから酒蔵や酒屋で日本酒を置いている目印として吊るすところも出てきました。杉の葉には抗菌作用があるため、日本酒の腐敗を防ぐため吊るしていたのではないか、など由来は諸説あります。   大神神社から組織に加盟する酒造関係者宛に全国に発送したり、持参して届けたりするようになりました。神職がひとつずつ手作りをしています。大神神社の杉玉は、さげられた札に「酒の神様 三輪明神」「志るしの杉玉」と裏表で焼き印があります。現在では各酒蔵で地元の杉を用いてつくったり、さまざまです。日本酒を扱う酒屋の軒先や店内に飾っていることもあります。今はすべてを総称して、日本酒にまつわる場所にある丸い杉の玉は「杉玉」「酒林」と呼んでいます。   三輪山は御神体。御神体ってなに? ▲奈良県にある三輪山  御神体(ごしんたい)とは、神霊が宿っているものとして神社などに祭り、礼拝の対象とする神聖な物体のことです。 日本人には宗教など体系的なものができる以前から、自然崇拝の考え方がありました。あらゆる自然物や自然現象のなかに、人間の力がおよばない霊威があると考え、祈り、感謝し、愛し、時に恐れ、ともに協和して生きてきました。山・巨岩・大木などがその対象でした。   そして時代が移り、鏡・剣・勾玉・鉾(ほこ)などをまつるようになりました。日本人はこのような精神を持つようになった理由は諸説ありますが、地震や津波など人間の力ではどうにもならない天災が多かったことも理由のひとつなのではないか、と言われています。   大神神社の御神体「三輪山」は、国造りの神様として、農業、工業、商業すべての産業開発、 方除(ほうよけ)、治病、造酒、製薬、禁厭(まじない)、交通、航海、縁結びなど世の中の幸福を増し進めることを計られた人間生活の守護神として尊崇されています。古くから酒造関係者だけでなく、地域に住む人たちが生きるために心のよりどころにしてきたことがわかります。     杉玉のつくりかた   ▲材料の杉の葉   ▲杉玉の葉を刈込み、杉玉制作をする筆者の様子   針金や竹などで丸く組んだ芯に、杉の葉をとにかくたくさん差し込んでいき、植木ばさみやチェーンソーなどで丸く刈込みます。全体のバランスを整えるのが難しく、大神神社のような丸く美しい杉玉をつくるのは、熟練の技術が必要です。   まとめ 大昔は、現在のように安全で健全な醸造をおこなうことが困難でした。冷房も掃除機もステンレスの機器もないのでいくら衛生状態を保つ努力をしていても、微生物である酵母や麹菌が他の菌に脅かされて、予期せぬ動きをすることもあります。酒が腐ってしまう、アルコールが上がらず発酵が止まってしまう、香りが悪くなるなど不測の事態が起きてしまうと酒造家たちは売上げを得られないだけでなく、大切に育てられた米(神様からの授け物)をダメにしてしまうことにもなります。そこで神様に祈りを捧げ「今年も無事に酒づくりができますように」と願ったのが、杉玉のルーツでした。小さなオブジェひとつにも、日本人の精神性が宿っていることをみんなに知って欲しいです。

日本酒のエイジングについて(熟成古酒)

日本酒のエイジングについて(熟成古酒)

日本酒はできてすぐに出荷するものを「新酒」と呼び、春頃つくったものを半年間貯蔵してから秋に出荷するものを「ひやおろし」「秋上がり」と呼びます。現在では流通が発達し、スピーディに届くため、「今飲んで欲しい!」という季節ごとの日本酒が多く販売されています。その方が消費者が飽きずに、同じ酒蔵でもいろんな商品を試してみたい、と心躍り購入するため、酒蔵の資金繰りが良くなるのです。 しかし熟成をした日本酒はまったく別物で、新しい楽しみ方をすることができるのでおすすめです。 日本酒の熟成酒とは?   熟成をさせているお酒としてワインやウイスキーなどが有名ですが、日本酒も同様で「熟成して美味しくなる」、という世界があります。これは日本人にもまだ広く知られていませんが、とても魅力的な、私のおすすめの楽しみ方です。「古酒(こしゅ)」「熟成酒(じゅくせいしゅ)」「長期熟成酒(ちょうきじゅくせいしゅ)」「熟成古酒(じゅくせいこしゅ)」などと呼びます。特に熟成期間が長いものを「大古酒(だいこしゅ)」と呼ぶこともあります。それぞれどれくらい熟成させればそう呼ぶのかは、法律や規定などがなく、厳密な規則はありません。   熟成酒をおいしくするメイラード反応   熟成させた日本酒は、メイラード反応が起こり、カラメルやカカオ、ナッツやスパイスのような香りがし、甘美で、大変おいしく、チョコレートやスパイスなどにもよく合います。新酒など若い日本酒には存在しない、とても複雑でコクのある芳醇な味わいがあります。アルコール度数がウイスキーなど蒸留酒より低いため、刺激も少なく、食事と一緒にじっくりと楽しむことができます。 日本酒のメイラード反応は、熟成過程で起こる化学的変化の一つです。メイラード反応とは、アミノ酸(たんぱく質の構成要素)と糖分が反応して、新たな風味や色を生み出す反応のことです。●日本酒におけるメイラード反応のメリット 風味の変化と豊かさ: メイラード反応により、日本酒はカラメル、ナッツ、果実などの複雑で豊かな風味が生まれます。これにより、味わいに深みと多様性が増します。  色の変化: メイラード反応は日本酒の色を変化させ、黄金色から琥珀色に深まります。この色の変化は、熟成度を感じさせ、視覚的な魅力を高めます。 品質の安定性の向上: メイラード反応により生成される化合物は、酸化による劣化を防ぐ役割を果たすことがあります。そのため日本酒が熟成する過程で、品質の安定性が高まることがあります。  科学的には、メイラード反応は加熱や長期熟成の過程で自然に起こる非酵素的な反応です。この反応は、特定の温度範囲内で特に活発になります。これにより、日本酒はその特有の熟成風味を獲得するのです。もし新酒の状態で味が似ている日本酒も、熟成させることで醸造方法や米の違いなど微細な違いが拡大し、違いがわかりやすくなります。   一般的な熟成酒/保管温度による違い   酒蔵が製造する熟成酒としては1年、3年、5年といったものが一般的です。長いものでは10年や、40年以上のものも存在しています。 色はディキシーイエローのようなものから、ウイスキーのようなサンフラワー ブラウンのようなものまで貯蔵の仕方や温度によって幅広いものがあります。 マイナス5℃など低い温度で貯蔵されたものは、比較的色が変わらずイエローなことが多いです。味わいは新酒の透明感を持ちながら、熟成のコクも備えていくことが多いです。一方で常温の酒蔵内に設置したタンクや瓶で熟成したものは、茶色く深い色になっていることが多いです。味わいの深さも色に比例することが多いです。どちらがいい、というものではなく、各人の好みや合わせる食事、シーンによって適するものが変化します。 これまで日本酒の熟成酒が発達しなかったのはなぜ?   こんなに素晴らしい日本酒の熟成酒が、今まであまり存在しなかった理由として、酒税の制度が関係しています。昔の日本では、「造石税(ぞうこくぜい)」が採用されていました。製造したお酒の量に課税する従量税方式で、酒造りが終わった時点で酒の売上に関わらず一定の金額を納める必要がありました。  明治29(1896)年に酒造税法が制定されました。この後、日清戦争後の軍備拡張と官営企業への財政支出が増大し、間接税を中心に増税が行われました。これに伴い、酒税は明治29年~34年までの5年間で3回増税が行われ、1899年には酒税の国税に占める割合が35.5%となり、それまで国税の税収のトップであった地租を抜いて国税の税収第1位となりました。その後、1904年に地租に逆転されましたが、1909年から再び国税の税収の第1位になりました。(参考/出典:国税庁ホームページ) このように国税の根幹を担っていた酒税。だから酒蔵は納税の問題から、つくった日本酒をすぐ市場に出荷し、資金を回収することが求められました。 昭和19年に「蔵出税(くらだしぜい)」に変化しましたが、戦争が起こるなど米が少ない状況が続いたので、熟成酒はあまり出回りませんでした。   長期熟成酒研究会   長期熟成酒研究会とは、熟成酒の普及とその品質の向上を主な目的として、小売店、酒販店、流通業者、酒蔵によって、1985年に設立された任意団体です。製造技術、熟成期間に起こる変化を科学的に研究する団体です。 長期熟成酒研究会では、「満3年以上蔵元で熟成させた、糖類添加酒を除く清酒」を熟成古酒と定義しています。 長期熟成酒研究会が提唱する熟成酒の分類 熟成古酒は吟醸酒、純米酒、本醸造酒などの「特定名称酒」ではないため、ラベルへの表示規定がありません。そのため、「熟成酒」「長期熟成」「秘蔵酒」などと書かれていても1、2年で出荷されているものもあります。年数に規定はありません。こういった年数のものは熟成古酒というよりは、「ひやおろし」や「秋あがり」のような味の調和や円熟味を考慮した商品であるといえます。 そこで「長期熟成酒研究会」では、熟成古酒には一般に以下の3点の違いから、様々なタイプの商品が考えています。  1,醸造の仕方 2,貯蔵・熟成の仕方 3,熟成年数 (出典:長期熟成酒研究会ホームページ)   一般社団法人 刻(とき)SAKE協会 2019年8月には、熟成酒文化の振興を目指す「一般社団法人刻SAKE(ときさけ)協会」という団体が設立されました。熟成酒のブランド化や流通体制・価格帯の見直しを通じて、新たな市場を開拓しようとしています。7つの酒蔵と日本ソムリエ界の重鎮・田崎真也氏が参加し、熟成酒の文化再興のための研究や活動を行っています。同協会は今後、国税庁、(独)酒類総合研究所を始め各種研究機関と共にエビデンスの伴った熟成基準つくりに努めていきたい、としています 【加盟する酒蔵】 「月の桂」(株)増田德兵衞商店(京都府) 「黒龍」黒龍酒造(株)(福井県)、 「出羽桜」 出羽桜酒造(株)(山形県) 「東力士」(株)島崎酒造(栃木県) 「木戸泉」木戸泉酒造(株)(千葉県) 「南部美人」(株)南部美人(岩手県) 「水芭蕉」永井酒造(株)(群馬県)   ペアリングの楽しみが拡がる  「熟成古酒のタイプ」によって、相性の良い料理が変わります。酒蔵や酒のスペックにより異なりますが、目安としては以下の通りです。濃熟タイプは、まるで紹興酒のように油が多い中華料理ともバランスするほど芳醇な味わいとなります。 (出典:長期熟成酒研究会ホームページ)     熟成酒をウリにしている日本酒銘柄   熟成酒に力を入れている酒蔵はたくさんあって紹介しきれませんが、一部紹介します。  「剣菱」 剣菱酒造 「達磨正宗(だるままさむね)」  白木恒助(しらきつねすけ)商店 「玉川」  木下酒造 「沢の鶴」  沢の鶴 「東力士、熟露枯(うろこ)」  島崎酒造 「龍力(たつりき)」  本田商店 「神亀(しんかめ)」 神亀酒造 「菊姫」 菊姫酒造   他にも多数の酒蔵が、上質な熟成酒をつくっています。   熟成酒に向かない酒   だいたいの日本酒は、熟成をすることでまた違った楽しみ方をできるものです。しかし、あまり適さず、「新酒」の状態ですぐ飲んだ方がおいしいものもあります。  ●果実感のあるフルーティな香りの日本酒 このような香りは、酵母由来の物が多いです。このような酒は、香りの劣化が早いことが多く、味わいよりも早く香りが悪くなる可能性が高いです。絶対に劣化するわけではありません。あくまでも傾向ですが、熟成することをあまりお勧めしません。  ●生酒、生原酒 すべてではありませんが、瓶内でまだ酵母が生きているため変化が著しく貯蔵をするより、すぐに飲んだ方がおいしい可能性が高いです。少なくとも醸造元は冷蔵庫で冷やし、すぐに飲むことを勧めるでしょう。  ●酒蔵が「冷酒で飲んでください」と勧めている日本酒 上記に当てはまるものは、酒蔵が「冷蔵庫で冷やし、冷酒で飲んでください」と早く飲むことを想定してつくっているため、長期の熟成を望んでいません。美味しく飲むためには、酒蔵の気持ちを酌むのがよいでしょう。   まとめ   日本酒の熟成酒について紹介しました。 2023年10月にはじめておこなわれた日本酒のコンペティション「Japan Wowen‘s SAKE Award2023」では、「スパークリング部門」「フルーティー部門」「ライト&ドライ部門」「リッチ&ウマミ部門」「エイジド部門」「ロウ・アルコール部門」と香味別の6部門にわけて、厳正な審査がされました。審査員は、20代以上の幅広い年代の女性81名です。私も審査員のひとりとして参加し、表彰式にも立ち会ったのでよく覚えています。今回の最高峰の日本酒はなんと「天山 純米全麹仕込み  20年熟成」でした。「女性はフルーティでライトな日本酒が好きなのでは?」という周囲の予想と異なる結果になりました。いろいろな素晴らしい日本酒のなかで、熟成酒がトップだったのです。日本でもあまりまだ知られていませんが、今後必ず注目されていくと思います。ぜひ多くの人に注目して欲しい日本酒のジャンルのひとつです。 日本酒には熟成酒に向く酒、向かない酒があります。最後に伝えたいのは、そのどちらの性質がいいとか悪いとか議論をする必要はありません。ふたつの役割が異なります。新酒などガス感がありフレッシュでフルーティさを楽しめる酒は、気軽に楽しめます。ペアリングでも活躍する場は多いです。それから日本酒独特の香りや重厚な旨さが苦手な人にとっては親しみやすく、「日本酒っていいかも」と見直すきっかけになります。熟成酒はその先にあるより奥深い世界。フレッシュな日本酒とは違うフードペアリングの可能性があります。理解して、両方楽しんで欲しいです。

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