杉玉ってなに?~日本酒のおいしい飲み頃をお知らせします

杉玉ってなに?~日本酒のおいしい飲み頃をお知らせします

 ▲新酒ができる冬の時期の杉玉

 

▲日本酒が熟成してきた頃の葉が枯れて茶色くなってきた頃の杉玉

 

杉玉(すぎたま)とは、杉の枝を差し込んでいき、表面に葉の穂先を集めてボール状にした造形物です。酒林(さかばやし)とも呼ばれます。

杉玉は、日本酒の酒蔵の軒先に吊すことで、新酒が出来たことを知らせる役割があります。作ったばかりの緑色の杉玉が軒先に見えたら「新酒ができました」の合図です。また杉の葉は次第に枯れて茶色く色づいていきます。この色づきで、日本酒の熟成具合を知ることができます。杉玉を雨風から守るため、上に三角形の傘がつけられている物もあります。

 

杉玉の由来

 

杉玉は、奈良県にある日本最古の神社、大神神社(おおみわじんじゃ)のもの、とされています。大神神社は、「日本三大酒神神社」にも数えられ、多くの日本酒醸造家たちが酒造り前にお参りに訪れます。大神神社の拝殿と祈祷殿の向拝には直径1.5m、重さ150kgにもなる大杉玉が吊されており、一年に一度、11月14日の醸造安全祈願祭(酒まつり)の前日に青々としたものに新調されます。

かつて各地の蔵人がそ大神神社にお参りに訪れた時、神社の御神体である三輪山の杉の葉を酒造りのお守りとして持ち帰ったことに由来します。やがて丸くまとめ形が整えられるようになりました。そして江戸時代ころから酒蔵や酒屋で日本酒を置いている目印として吊るすところも出てきました。杉の葉には抗菌作用があるため、日本酒の腐敗を防ぐため吊るしていたのではないか、など由来は諸説あります。

 

大神神社から組織に加盟する酒造関係者宛に全国に発送したり、持参して届けたりするようになりました。神職がひとつずつ手作りをしています。大神神社の杉玉は、さげられた札に「酒の神様 三輪明神」「志るしの杉玉」と裏表で焼き印があります。現在では各酒蔵で地元の杉を用いてつくったり、さまざまです。日本酒を扱う酒屋の軒先や店内に飾っていることもあります。今はすべてを総称して、日本酒にまつわる場所にある丸い杉の玉は「杉玉」「酒林」と呼んでいます。

 

三輪山は御神体。御神体ってなに?

▲奈良県にある三輪山

 御神体(ごしんたい)とは、神霊が宿っているものとして神社などに祭り、礼拝の対象とする神聖な物体のことです。

日本人には宗教など体系的なものができる以前から、自然崇拝の考え方がありました。あらゆる自然物や自然現象のなかに、人間の力がおよばない霊威があると考え、祈り、感謝し、愛し、時に恐れ、ともに協和して生きてきました。山・巨岩・大木などがその対象でした。

 

そして時代が移り、鏡・剣・勾玉・鉾(ほこ)などをまつるようになりました。日本人はこのような精神を持つようになった理由は諸説ありますが、地震や津波など人間の力ではどうにもならない天災が多かったことも理由のひとつなのではないか、と言われています。

 

大神神社の御神体「三輪山」は、国造りの神様として、農業、工業、商業すべての産業開発、 方除(ほうよけ)、治病、造酒、製薬、禁厭(まじない)、交通、航海、縁結びなど世の中の幸福を増し進めることを計られた人間生活の守護神として尊崇されています。古くから酒造関係者だけでなく、地域に住む人たちが生きるために心のよりどころにしてきたことがわかります。

 

 

杉玉のつくりかた

 

▲材料の杉の葉

 

▲杉玉の葉を刈込み、杉玉制作をする筆者の様子

 

針金や竹などで丸く組んだ芯に、杉の葉をとにかくたくさん差し込んでいき、植木ばさみやチェーンソーなどで丸く刈込みます。全体のバランスを整えるのが難しく、大神神社のような丸く美しい杉玉をつくるのは、熟練の技術が必要です。

 

まとめ

大昔は、現在のように安全で健全な醸造をおこなうことが困難でした。冷房も掃除機もステンレスの機器もないのでいくら衛生状態を保つ努力をしていても、微生物である酵母や麹菌が他の菌に脅かされて、予期せぬ動きをすることもあります。酒が腐ってしまう、アルコールが上がらず発酵が止まってしまう、香りが悪くなるなど不測の事態が起きてしまうと酒造家たちは売上げを得られないだけでなく、大切に育てられた米(神様からの授け物)をダメにしてしまうことにもなります。そこで神様に祈りを捧げ「今年も無事に酒づくりができますように」と願ったのが、杉玉のルーツでした。小さなオブジェひとつにも、日本人の精神性が宿っていることをみんなに知って欲しいです。


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