世界に存在する米は、大まかにわけて「アフリカイネ」と「アジアイネ」2種類あります。「アフリカイネ」はアフリカの西部でごくわずかに生産されているだけで、現在栽培されているほとんどのイネは、「アジアイネ」です。「アジアイネ」は、「ジャポニカ種(短粒種)」と「インディカ種(長粒種)」に分類されます。さらにそれぞれのでんぷん成分によって「うるち米」と「もち米」に分類されます。
日本酒醸造用の「酒米=酒造好適米」は、「アジアイネ」の「ジャポニカ種(短粒種)」のなかの「醸造用玄米」に分類されます。日本の農林水産省の規定によって、食用の米とは別で管理されています。
なぜ酒米=酒造好適米が必要?

日本において、食用の米はモチモチとした食感で、適度に粘り気があって、甘みのバランスが良い味わいが好まれます。しかし粘り気のある食用米は、日本酒のための米麹をつくりにくいのです。麹菌を振りかけ、一粒一粒ムラがないようしっかりと米の内部まで菌糸をのばし、日本酒づくりに最適な麹をつくるよう麹室(こうじむろ)という専用部屋で作業をしますが、その際に粘り気があって粒々とがくっつきベタベタしていると、蔵人が適切な作業をしにくいのです。
良い酒米の条件
<精米で砕けにくい>
また米の表層部分にはたんぱく質や脂肪などが多く、それらは酒の雑味に繋がります。だから食用米はだいたい90%程度の精米ですが、酒米は20%、50%、80%…とつくろうとする酒の品質によってたくさん精米します。多くの精米をしても砕けずに形を留める必要があります。
<心白がある>
酒米には、米の中心に「心白(しんぱく)」と呼ばれる白色不透明な部分があります。これはでんぷんの結晶が集積し、周囲に比べてすき間があいているため、光が乱反射して、白濁して見えるのです。周囲より柔らかい心白部分に麹菌の菌糸がしっかりと根を伸ばすため、酵素力を持つ良質な麹米になりやすいのです。ただし心白は大きすぎても砕ける原因になるため、適度な大きさが良しとされています。タンパク質が少ないことも良い条件のひとつ、といわれています。
酒米にもグレードがある
▲特等を獲得した山梨県産山田錦
研究機関で品種改良して良質にされた酒米を、農家が大切にこだわりぬいて田んぼで育てても、その年の気候や管理方法によって収穫される米の品質は異なる。毎年、米の品質は審査される。酒米は整粒歩合※によって、特上、特等、一等、二等、三等、規格外の6段階に分けられる。食用米は4段階なので、より細かく規定されていることがわかるだろう。いくら心白が大きく、良質な酒米品種でも、等級が低ければ米の割れも多く、心白の役割を発揮することができないため、等級は重要。また特定名称酒をラベルするには、三等以上の米しか使うことができません。特定名称酒の説明は、【WHAT'S “Nihonshu”? そもそも日本酒ってなに?】の記事を読んでください。
※整粒歩合=米の状態を判断する基準のひとつで、一定量の玄米の中に存在するきちんと整った形をしている米粒の割合を%で示した指標のこと。
精米、精米方法、精米機
稲から丁寧に育て、丁寧に収穫し、細心の注意を払って乾燥し、丁寧に精米してから、ようやく醸造家の手元に届きます(もちろん自社精米をする酒蔵も多数ある)。純米吟醸酒・吟醸酒は60%以上、大吟醸酒・純米大吟醸酒は50%以上、酒米を磨く必要がある。たくさん磨くと、摩擦熱によって米が熱を帯びて割れやすくなります。そのため割れないようギリギリの速度で、より多くの時間をかけてじっくりと精米する必要があるのです。
酒米用の精米機を製造しているのは、株式会社サタケ(広島県東広島市)と新中野工業株式会社(岡山県岡山市)の2社だけ。それぞれ独自の技術をつめこんだ機械を販売しています。アメリカやその他海外向けにも販売しています。ただし機械は高額なうえに、巨大だから簡単に買えるものではありません。そこで日本には数か所、みんなで出資して共同で使える精米所(搗精工場)や委託精米できる搗精工場があります(食用米だともっとたくさんある)。
酒米のおもな種類について
▲剣菱酒造が契約している山田錦の圃場
酒造好適米は、100種類以上あります。ただし代表的な品種で、各地で栽培されている山田錦(やまだにしき)、五百万石(ごひゃくまんごく)のふたつを合わせると作付面積の60%以上になります。その他にも雄町(おまち)、美山錦(みやまにしき)、亀の尾(かめのお)、八反錦(はったんにしき)、愛山(あいやま)、千本錦(せんぼんにしき)、出羽燦々(でんわさんさん)、越淡麗(こしたんれい)などがあります。
米の品種によって、育てることができる地域が異なります。「酒米の王様」と呼ばれ、醸造に適している山田錦が栽培できる北限は現在、新潟県といわれています。独自の酒米品種と独自の酵母があれば都道府県の日本酒の特色にもつながりやすいため、各地にある食品技術センターなどでその土地に適した酒米が研究開発されています。
寒い北海道では酒米が育たない、といわれていましたが、2000年に「吟風(ぎんぷう)」、2006年に「彗星(すいせい)」、2014年には「きたしずく」が優良品種として認定されました。温暖化が進む将来のために、全国の酒蔵が北海道産米に注目しています。
なかには食用米でつくる蔵もある
京都府・白杉酒造や、群馬県・土田酒造などはあえて食用米だけを使った酒づくりをしています。酒蔵のすべてではないですが、一部商品は安く手軽に飲んで欲しい(特に酒蔵の地元地域の人たちに)日本酒だけは食用米を使う酒蔵は全国にもたくさんあります。また古代米を使用した赤色の日本酒という変わり種も存在します。
それから甘みをプラスするため、三段仕込みのあと、四段目にもち米を投入する「もち米四段」という技術もあります。自社の醸造の特色として打ち出している酒蔵もありますし、特に記載することなく技術を取り入れている酒蔵もあります。
まとめ

日本酒の原材料である米の良し悪しは、完成する酒の品質にも大きく影響を及ぼします。だから米作り、もっと深く考えると田んぼの土壌づくりから日本酒づくりは始まっているとも言えます。
高品質の酒米をたくさん磨いて使えば、雑味の少ないキレイで美味しい日本酒が完成しやすくなります。しかしひと昔前に比べて発酵学が進歩し、より良い醸造方法の情報が交換され議論されるようになり、冷蔵設備が整い、より衛生管理ができる道具が誕生するなど、前よりも安定しておいしい日本酒がつくりやすくなってきました。各酒蔵の個性を出すことが現代のテーマとも言えます。その点選択肢も広がっています。酒米を使用するか食用米を使用するか。あえてあまり精米せずに日本酒をつくるという選択肢もあります。酒蔵では、生産者や生産地選択、原料選択から出荷まで、あらゆる最善の選択をして日本酒をつくり、みんなに届けているのです。