日本酒のエイジングについて(熟成古酒)

日本酒のエイジングについて(熟成古酒)

日本酒はできてすぐに出荷するものを「新酒」と呼び、春頃つくったものを半年間貯蔵してから秋に出荷するものを「ひやおろし」「秋上がり」と呼びます。現在では流通が発達し、スピーディに届くため、「今飲んで欲しい!」という季節ごとの日本酒が多く販売されています。その方が消費者が飽きずに、同じ酒蔵でもいろんな商品を試してみたい、と心躍り購入するため、酒蔵の資金繰りが良くなるのです。

しかし熟成をした日本酒はまったく別物で、新しい楽しみ方をすることができるのでおすすめです。

日本酒の熟成酒とは?

 

熟成をさせているお酒としてワインやウイスキーなどが有名ですが、日本酒も同様で「熟成して美味しくなる」、という世界があります。これは日本人にもまだ広く知られていませんが、とても魅力的な、私のおすすめの楽しみ方です。
「古酒(こしゅ)」「熟成酒(じゅくせいしゅ)」「長期熟成酒(ちょうきじゅくせいしゅ)」「熟成古酒(じゅくせいこしゅ)」などと呼びます。特に熟成期間が長いものを「大古酒(だいこしゅ)」と呼ぶこともあります。それぞれどれくらい熟成させればそう呼ぶのかは、法律や規定などがなく、厳密な規則はありません。

 

熟成酒をおいしくするメイラード反応

 

熟成させた日本酒は、メイラード反応が起こり、カラメルやカカオ、ナッツやスパイスのような香りがし、甘美で、大変おいしく、チョコレートやスパイスなどにもよく合います。新酒など若い日本酒には存在しない、とても複雑でコクのある芳醇な味わいがあります。アルコール度数がウイスキーなど蒸留酒より低いため、刺激も少なく、食事と一緒にじっくりと楽しむことができます。

日本酒のメイラード反応は、熟成過程で起こる化学的変化の一つです。メイラード反応とは、アミノ酸(たんぱく質の構成要素)と糖分が反応して、新たな風味や色を生み出す反応のことです。
●日本酒におけるメイラード反応のメリット

風味の変化と豊かさ: メイラード反応により、日本酒はカラメル、ナッツ、果実などの複雑で豊かな風味が生まれます。これにより、味わいに深みと多様性が増します。

 色の変化: メイラード反応は日本酒の色を変化させ、黄金色から琥珀色に深まります。この色の変化は、熟成度を感じさせ、視覚的な魅力を高めます。

品質の安定性の向上: メイラード反応により生成される化合物は、酸化による劣化を防ぐ役割を果たすことがあります。そのため日本酒が熟成する過程で、品質の安定性が高まることがあります。

 科学的には、メイラード反応は加熱や長期熟成の過程で自然に起こる非酵素的な反応です。この反応は、特定の温度範囲内で特に活発になります。これにより、日本酒はその特有の熟成風味を獲得するのです。もし新酒の状態で味が似ている日本酒も、熟成させることで醸造方法や米の違いなど微細な違いが拡大し、違いがわかりやすくなります。

 

一般的な熟成酒/保管温度による違い

 

酒蔵が製造する熟成酒としては1年、3年、5年といったものが一般的です。長いものでは10年や、40年以上のものも存在しています。 色はディキシーイエローのようなものから、ウイスキーのようなサンフラワー ブラウンのようなものまで貯蔵の仕方や温度によって幅広いものがあります。

マイナス5℃など低い温度で貯蔵されたものは、比較的色が変わらずイエローなことが多いです。味わいは新酒の透明感を持ちながら、熟成のコクも備えていくことが多いです。一方で常温の酒蔵内に設置したタンクや瓶で熟成したものは、茶色く深い色になっていることが多いです。味わいの深さも色に比例することが多いです。どちらがいい、というものではなく、各人の好みや合わせる食事、シーンによって適するものが変化します。

これまで日本酒の熟成酒が発達しなかったのはなぜ?

 

こんなに素晴らしい日本酒の熟成酒が、今まであまり存在しなかった理由として、酒税の制度が関係しています。昔の日本では、「造石税(ぞうこくぜい)」が採用されていました。製造したお酒の量に課税する従量税方式で、酒造りが終わった時点で酒の売上に関わらず一定の金額を納める必要がありました。

 明治29(1896)年に酒造税法が制定されました。この後、日清戦争後の軍備拡張と官営企業への財政支出が増大し、間接税を中心に増税が行われました。これに伴い、酒税は明治29年~34年までの5年間で3回増税が行われ、1899年には酒税の国税に占める割合が35.5%となり、それまで国税の税収のトップであった地租を抜いて国税の税収第1位となりました。その後、1904年に地租に逆転されましたが、1909年から再び国税の税収の第1位になりました。(参考/出典:国税庁ホームページ)

このように国税の根幹を担っていた酒税。だから酒蔵は納税の問題から、つくった日本酒をすぐ市場に出荷し、資金を回収することが求められました。

昭和19年に「蔵出税(くらだしぜい)」に変化しましたが、戦争が起こるなど米が少ない状況が続いたので、熟成酒はあまり出回りませんでした。

 

長期熟成酒研究会

 

長期熟成酒研究会とは、熟成酒の普及とその品質の向上を主な目的として、小売店、酒販店、流通業者、酒蔵によって、1985年に設立された任意団体です。製造技術、熟成期間に起こる変化を科学的に研究する団体です。

長期熟成酒研究会では、「満3年以上蔵元で熟成させた、糖類添加酒を除く清酒」を熟成古酒と定義しています。

長期熟成酒研究会が提唱する熟成酒の分類

熟成古酒は吟醸酒、純米酒、本醸造酒などの「特定名称酒」ではないため、ラベルへの表示規定がありません。そのため、「熟成酒」「長期熟成」「秘蔵酒」などと書かれていても1、2年で出荷されているものもあります。年数に規定はありません。こういった年数のものは熟成古酒というよりは、「ひやおろし」や「秋あがり」のような味の調和や円熟味を考慮した商品であるといえます。

そこで「長期熟成酒研究会」では、熟成古酒には一般に以下の3点の違いから、様々なタイプの商品が考えています。

 1,醸造の仕方

2,貯蔵・熟成の仕方

3,熟成年数

(出典:長期熟成酒研究会ホームページ)

 

一般社団法人 刻(とき)SAKE協会

2019年8月には、熟成酒文化の振興を目指す「一般社団法人刻SAKE(ときさけ)協会」という団体が設立されました。熟成酒のブランド化や流通体制・価格帯の見直しを通じて、新たな市場を開拓しようとしています。7つの酒蔵と日本ソムリエ界の重鎮・田崎真也氏が参加し、熟成酒の文化再興のための研究や活動を行っています。同協会は今後、国税庁、(独)酒類総合研究所を始め各種研究機関と共にエビデンスの伴った熟成基準つくりに努めていきたい、としています

【加盟する酒蔵】

「月の桂」(株)増田德兵衞商店(京都府)

「黒龍」黒龍酒造(株)(福井県)、

「出羽桜」 出羽桜酒造(株)(山形県)

「東力士」(株)島崎酒造(栃木県)

「木戸泉」木戸泉酒造(株)(千葉県)

「南部美人」(株)南部美人(岩手県)

「水芭蕉」永井酒造(株)(群馬県)

 

ペアリングの楽しみが拡がる

 

「熟成古酒のタイプ」によって、相性の良い料理が変わります。酒蔵や酒のスペックにより異なりますが、目安としては以下の通りです。濃熟タイプは、まるで紹興酒のように油が多い中華料理ともバランスするほど芳醇な味わいとなります。

(出典:長期熟成酒研究会ホームページ)

 

 

熟成酒をウリにしている日本酒銘柄

 

熟成酒に力を入れている酒蔵はたくさんあって紹介しきれませんが、一部紹介します。

 「剣菱」 剣菱酒造

「達磨正宗(だるままさむね)」  白木恒助(しらきつねすけ)商店

「玉川」  木下酒造

「沢の鶴」  沢の鶴

「東力士、熟露枯(うろこ)」  島崎酒造

「龍力(たつりき)」  本田商店

「神亀(しんかめ)」 神亀酒造

「菊姫」 菊姫酒造

 

他にも多数の酒蔵が、上質な熟成酒をつくっています。

 

熟成酒に向かない酒

 

だいたいの日本酒は、熟成をすることでまた違った楽しみ方をできるものです。しかし、あまり適さず、「新酒」の状態ですぐ飲んだ方がおいしいものもあります。

 ●果実感のあるフルーティな香りの日本酒

このような香りは、酵母由来の物が多いです。このような酒は、香りの劣化が早いことが多く、味わいよりも早く香りが悪くなる可能性が高いです。絶対に劣化するわけではありません。あくまでも傾向ですが、熟成することをあまりお勧めしません。

 ●生酒、生原酒

すべてではありませんが、瓶内でまだ酵母が生きているため変化が著しく貯蔵をするより、すぐに飲んだ方がおいしい可能性が高いです。少なくとも醸造元は冷蔵庫で冷やし、すぐに飲むことを勧めるでしょう。

 ●酒蔵が「冷酒で飲んでください」と勧めている日本酒

上記に当てはまるものは、酒蔵が「冷蔵庫で冷やし、冷酒で飲んでください」と早く飲むことを想定してつくっているため、長期の熟成を望んでいません。美味しく飲むためには、酒蔵の気持ちを酌むのがよいでしょう。

 

まとめ

 

日本酒の熟成酒について紹介しました。

2023年10月にはじめておこなわれた日本酒のコンペティション「Japan Wowen‘s SAKE Award2023」では、「スパークリング部門」「フルーティー部門」「ライト&ドライ部門」「リッチ&ウマミ部門」「エイジド部門」「ロウ・アルコール部門」と香味別の6部門にわけて、厳正な審査がされました。審査員は、20代以上の幅広い年代の女性81名です。私も審査員のひとりとして参加し、表彰式にも立ち会ったのでよく覚えています。今回の最高峰の日本酒はなんと「天山 純米全麹仕込み  20年熟成」でした。「女性はフルーティでライトな日本酒が好きなのでは?」という周囲の予想と異なる結果になりました。いろいろな素晴らしい日本酒のなかで、熟成酒がトップだったのです。日本でもあまりまだ知られていませんが、今後必ず注目されていくと思います。ぜひ多くの人に注目して欲しい日本酒のジャンルのひとつです。


日本酒には熟成酒に向く酒、向かない酒があります。最後に伝えたいのは、そのどちらの性質がいいとか悪いとか議論をする必要はありません。ふたつの役割が異なります。新酒などガス感がありフレッシュでフルーティさを楽しめる酒は、気軽に楽しめます。ペアリングでも活躍する場は多いです。それから日本酒独特の香りや重厚な旨さが苦手な人にとっては親しみやすく、「日本酒っていいかも」と見直すきっかけになります。熟成酒はその先にあるより奥深い世界。フレッシュな日本酒とは違うフードペアリングの可能性があります。理解して、両方楽しんで欲しいです。


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